「殺生石」というのがありますが、それに近い話があります。
じじいが遭遇した石怪異で極めつけは、「獣を喰らう石」だったそうです。
どういうものか?
山奥を歩いていると、盛んに猿の鳴き声がしていました。
猿の群がいる山でした。
いつも聞き慣れている声ですが、その日の声は、なにか尋常でない叫び声だったそうです。
森をかき分けていくと、猿の声が大きくなってきます。
すると、急に開けた広場のような場所に出ました。
そこに猿の群がいたそうです。
これは、あぶないか?
そう思って、じじいは腰に下げた鉈に手をかけましたが、猿たちは、ある一カ所を見ていて、じじいには無関心でした。
その騒ぎの中心では、一匹の猿が大きな石の上で暴れていたそうです。
石の上で柔道の寝業をかけられたようにもがいていた。
石から離れないのです。
じじいが、よく見ると、猿の脚が石の中に埋もれています。
驚いてじじいはその光景を凝視していました。
すると、石に細い裂け目ができて、ばかっと少し開いてさらに、猿の腰から胸にかけて飲み込んだのです。
さらに悲鳴を上げる猿。
周りの猿も叫ぶ。
耳をつんざくほどの喧噪だったそうです。
さらに、石は『口』を開いて、猿の胸から肩の部分を飲み込み、ついには全部を飲み込んで、石の口は閉じたそうです。
そのとき、猿の群は叫ぶのをやめて、じじいに気づいて、彼を威嚇しながら去っていったそうです。
その後、石の口は現れず微動だにしなかった。
じじいは近づいてその石を調べてみましたが、普通の石灰岩のような石だったとか。
ただ、表面はスベスベしていたとのこと。
触ろうかと思いましたが、あの猿のように噛みつかれて喰われたらどうしよう!と思ってやめたそうです。
じじい、危機一髪だったのかもしれません。
石の周りに骨などが散らばることもなく、きれいになものだったそうです。
このような鳥獣を喰らう石というのは、日本には昔から話があるようです。