うちの祖母さまが盆栽好き。
けどずっと個人の楽しみとしてやっていた。
祖母の通夜の後、祖母の友人の一人のH氏が作品をみてこうつぶやいた。
「売ってくれ」
それから少しして展覧会への招待状がH氏から届いた。
その時はまったく実感がなく、うちの家族もチケットを押し付け合うような有様だったんだが、渋々行かされた俺はすごくショックを受けた。
H氏は自分でも生むが収集のほうでも関東屈指の盆栽家の一人と言われてるらしく、そのコレクションを見に多くの人がやってきていた。
その彼が隠すことなく祖母の名前を出して絶賛していた。
多くの愛好家たちが囲んで「売れませんか?」と食い下がっていた。
彼は「私のコレクションです!」といって売る話を全て断った。
恥ずかしがりやだった祖母がこれをみたらきっと喜んだだろう。
それから年月が経ち、ある日ふと夢をみた。
火に包まれるみたことのない屋敷。
その中で祖母が一番かわいがっていた一番の失敗作が燃えていた。
妙な胸騒ぎがしてH氏に連絡をとってから一か月後。
H氏の家でボヤ騒ぎがあったと本人から連絡があった。
俺からの電話の後、小型消火器を導入してみたら本当に火事が起きたそうだ。
でも祖母の一番かわいがっていた作品は、近所の人が通報してかけつけた消防隊に倒されてしまって、枝振りも何もすべてが失われたそうだ。
平謝りするH氏に『あの虫の知らせはきっとH氏を助けるためのものだ』と言った。