俺がまだ、9歳かそれくらいの頃。
学級にガネってあだ名のやつがいてね。
そいつはかなり変わってて、今ならアスペルガーなどの病名がつきそう。
言ってることはおかしいし、すぐキレるし、まあ友達は誰もいなくて、いつも一人で遊んでた。
ある日ガネが、お寺の沼(そこは窪地になってて親には近づくなって言われてた。当時は広いように感じたが、今からすれば直径30mくらい)の岸で何かやってた。
俺はたまたま土手の上を通りかかったら、そいつが俺に気付いて、「おい」といって何か大きなものを投げつけてきた。
石だと思って咄嗟によけたが、足下に落ちたそれは石ではなく、その沼にすむ亀だった。
しかも手と首がもがれたらしく、甲羅の穴から土手の草むらに血がこぼれた。
しばらくそれに目線が釘付けになったが、ふとガネのほうを見ると、口元がくちゃくちゃと動いていた。
幽霊話でなくてすまんが、生まれてから俺が最もぞっとした体験。
俺がガネと同じクラスになったのは小3からで、そのときすでにガネって呼ばれてた。
家がクズガネ屋(廃鉄回収業)をやってたからだと思う。
ガネは小3になっても教室内で排泄することなどしょっちゅうで、よく担任の女の先生を泣かしてた。
ガネは、ほとんど誰とも話さなかったが、席替えで俺が近くになったときこんな話を聞いた。
「俺んちの母ちゃん、父ちゃんに出す料理に、毎日細かく切った髪の毛を混ぜてるんだぜ。早く死ねばいいんだって。」
もちろんここに書いたような脈略のある言葉ではなかったので、俺の勘違いかもしれない。
ガネは、その後5年生の初め頃、施設に行った。
それからどうなったかは知らない。