俺の周りで死人が続出

カテゴリー「心霊・幽霊」

2年前、高校を中退した俺はいろんな職をやってみたが、ひと月も勤めるとどれも俺に合わない気がして辞める・・・そんなことを繰り返してた。

ハローワークでいつものように職を探していると、とある警備会社の求人が目に留まった。
ガキのころ喘息持ちで、粉塵とか排気ガスの中での仕事は・・・と思って敬遠していたが、貯金がかなり厳しくなってたこともあって、応募してみることにした。

面接のあと、明日から見習いで来てくれと言われ、次の日からベテランの補助で現場に入ることになった。
その会社は主に工事現場の出入り口の管理や道路工事の交通誘導をやっていて、最初の現場は拡張されてる駅ビルの警備だった。

仕事は思ってたより楽で、業者や生コン車の出入りの時間のゲートの開け閉め・誘導の他は掃除ばかりやってる感じだった。
先輩は南方戦線帰りとかいう凄いじいさまだったが、目も手も足もしっかりしてて、手抜きしてると大声でドヤされる。
おかげで一週間もしないうちに仕事を覚えて別なゲート任されることになった。

一週間ほどしたある日。
朝からいつもどおり出入りの車を誘導して掃除していたら中から鉄骨を何本かまとめて落としたみたいなすごい音がして、あーっやったなって思ってたら救急車が来た。

はつり屋が一人エレベーターシャフトから落ちたらしくて工事は全部中断。
落ちた人は即死だった。
じいさまがメシのとき、こういう大きい現場じゃたまに人柱が立つ、みたいなこと言うからゾッとした。

その現場にまた新人が入るっていうんで俺は別な現場にまわされることになった。

次の現場は高速道路と有料高架道路の接続工事で、俺は擁壁沿いに掘っていくパワーショベル。
周りの歩行者誘導が仕事。
と言っても歩行者なんか滅多に通らないから掃除ばかりやってた。

現場のなかのことは基本的にノータッチ。
労災きかないし。

現場監督は安全管理云々言ってたけど、危ないと思っても素人がプロに口出しできないし、パワーショベルのそばでとびが作業してるの見ながら、バケットで殴られたらいてーだろーなーとか考えてた。

その日もカッター屋が切って泥と水でぐちゃぐちゃになってるアスファルトを掃除していた。

旧式のパワーショベルは、アームの反対側のエンジン部分が大きくて、回転するとキャタピラから車体がかなりはみだしてくるものがある。
この現場に来てたのもそういうタイプだった。

資材を抱えた若いとびが、近道したかったのか、パワーショベルと擁壁の間をすり抜けようとしているのが見えた。
危なくないか?って思ったときは遅かった。

パワーショベルのアームが回って、とびは車体と擁壁、10cmほどの隙間に挟まれた。

頭と肩が明らかに不自然な曲がり方してて、遠目にも助からないと分かった。

現場のなかのことだから、俺には責任はない。
でも、気分が悪かったから2日ほど休ませてもらって、現場も変えてもらった。
次の現場は道路車線拡張工事だった。
二人組みで無線使って片側交互通行。
通行量は少ないけど途切れない感じで結構忙しかったんだけど、体を動かしてないと前の現場思い出す俺には忙し過ぎるくらいのほうが良かった。

ロードローラーって見たことあるよな?
不整地を押し固めていく建設機械。
手押しの小さいのから見上げるくらいでかいのまでいろいろあるけど、その現場に来たのは小型ダンプくらいの人が乗って動かすやつだった。

作業終わって、いつもなら機械置き場にすぐ移動するんだけど、その日は移動してる最中に止まってしまった。
どうやら前方にちょっと大きめの石が落ちててどけないと進めないらしい。

俺は、どかしましょーかー?と叫んだんだが、運転手は危ないから自分がどけるよーと、叫び返してきた。

運転手が運転台から降りてきたとき、ロードローラーは完全に止まっていた。
運転手が車の前にまわって石に手をかけた、そのとき。
ゆっくりと、ロードローラーが前に進み始めた。

俺はなにか叫んでたらしいがよく覚えていない。
運転手は一瞬こっちを見た後、背後のロードローラーを振り向き、そのまま車に押し潰された。

今度は一週間休ませてもらった。
日給月給だから手取りが減るな、と思ってたが、出勤扱いにしてくれていた。
また工事現場だったら辞めようかな、とも考えていたが、与えられた仕事は郊外のショッピングセンターの駐車場警備だった。

出入り口の誘導が仕事で、場内の車は事故があったりするとトラブルになるから、誘導してはいけないとのことだった。
真夏の道路からの照り返しはかなりきつかったが、建設機械を見なくて済むのは気が楽だった。

現場についてしばらくたち、仕事にも慣れた頃。
その現場は3名が配置されていて、ピークを過ぎたら交代で昼食を取ることになっていた。

大抵はショッピングセンター内の店で急いで済ませる。
駐車場を横切るとき、なにか違和感を覚えた。
が、俺が食事を済ませないと待ってる二人は食事に行けない。
俺はその感じを振り払って食事に行った。

10分ほどで食事をかきこみ、その帰り。
違和感の正体を見つけた。

手だ。

駐車場の端に停まっている車の窓ガラスに小さな手が張り付いている。
車に駆け寄ってみると、やはり子供がぐったりとしていた。
ドアは開かない。
カギが閉まっているのだ。
窓を叩いても反応がない。

車のナンバーと車種を書きとめ、持ち主を呼び出した頃にはさらに20分ほど過ぎていた。

次の日の朝刊を見ると、小さく記事が出ていた。
嘆息し、会社へ向かう。

会社に着き、面接を受けた部屋に通されると、専務と社長が待っていた。
専務は言い出しにくい様子だったが社長に促されて切り出した。

俺の勤務態度には特に問題ないこと。
会社の都合で辞めてもらいたいこと。
退職金を出すので依願退職にして欲しいこと。
俺はほとんど聞いてなかった。

後日辞表を持っていきます、と言うと、もう会社のほうで書式を用意してあった。
日付と署名を書き込み捺印すると封筒を渡された。

無駄遣いしなければしばらく働かなくてもやっていける程度の金額が入っていた。

天職1天から授かった職業。
また、その人の天性に最も合った職業。

あれからいくつかの会社に勤めたが、どこもそう長続きはしなかった。
ただ、学歴の割には稼げているほうだと思う。
とりあえず、もう職種で迷う必要は無い。
三つ前の会社では面接時に聞かれる専門の資格も取らせて貰った。

先月末でまた辞表を出したので今はまた、履歴書を書いている。

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