俺が小学生の時の実話。
母親が地域の文化向上のボランティアをしていて、仲間の中にウチにも良く遊びにくる、大学出たばかりのお兄ちゃんがいた。
気さくで優しく、俺も大好きだったが、ある時バッタリ来なくなった。
それで、後から聞いた話。
体調が悪いので医者に行ったところ、いきなり睾丸ガンだと言われたという。
急いで入院して、丸ごと切除すれば、命は助かると。
お兄ちゃんはびびった。
いくら何でも急だし、失うものがでかい。
半信半疑という事もあり、手術は断って他の病院を回る日々。
でもどこでも診断は同じ。
お兄ちゃんは、取るのだけはイヤダいやだと言い続け、漢方から温泉から、取らないですみそうな方法を片っぱしから試したらしい。
でも、ものの半年もたたないうちに病状は悪化し、げっそりして別人のようになったという。
母親はその頃いちど会って来てるんだが、「死にたくない、こんな事で死にたくない」とぼろぼろ泣いていたという。
何もどうにもしてやれなくて、たまらんかった、と母親は言っていた。
結局、最初に行った病院に「やっぱり手術してください」と戻ったが既にあちこちに転移していて手遅れ。
「だからあの時言ったでしょ」と診察もしてもらえず、やっと受け入れてくれた病院でも、すでに手術は無意味と判断。
お兄ちゃんは泣きわめきながら死んで言ったという。
人生なんて、いつ何が起きるか解らない。
男がタマとられて生きていけるか、という気持ちの半分、生きてこそなんぼとも思い、つねに心の準備は必要だと思った。
何より、今の俺より若かったお兄ちゃんが、何を思い苦しんだか考えると、胸がしめつけられてヒザがガクブルするくらいだ。