同級生の話。
私たちが通っていた大学は、結構深い山中にあった。
当時はまだ設備も整っておらず、学内の彼方此方に野良犬が居着いていた。
今思えば結構な数がいたようだ。
いつの頃からか、夜のキャンパスに人面犬が出るという噂が立った。
そんなある夜、実験ですっかり遅くなった彼が、帰宅しようとエレベーターを待っていた時のことだ。
一階から彼のいる七階までゆっくりとエレベーターが上がってくる。
チンと音がして扉が開くと、その中に何か異様なモノがいた。
身体は確かに犬だった。
犬に詳しい彼が言うには、丁度秋田犬くらいの大きさだったらしい。
赤茶色の毛並みで、所々汚れている。
しかし、顔が人間のそれだった。
随分とアクの濃い白人の顔をしていた。
身体の毛色と合わせたかのような、少し暗目の金髪。
鉤のように尖った高鼻に、青い目。
ニヤリと笑う口元から覗く太い歯が、真っ白く健康そうだったという。
想像していた姿とちょっと方向性が懸け離れていたせいで、彼はしばらくの間、自分の見ているモノが人面犬だと認識できなかったらしい。
何の反応も出来ずにいる彼に向かって、人面犬は「HAHAHAHAHAHA!」と、まるでアメリカ人のような(?)達者な発音で笑いかける。
そうしてから、そのまま横をすり抜けて廊下の向こうに消えた。
気が付くと、誰かに呼ばれたのか、エレベーターは再び一階まで降りていた。
もうエレベーターを利用する気がせずに、仕方なく外部の非常階段を一階まで駆け下りたのだという。
「俺が思うに、うちのキャンパスに出る人面犬ってさ、○○学部で秘密裏に作ってた実験動物が逃げ出したヤツなんじゃねぇかな?どう見てもありゃキメラだったぜ」
大真面目でそう口にする彼に向かい、誰かが言った。
「○○学部にそんな御大層な研究している研究室は無えよ」
ある意味大変失礼な発言だが、なぜか皆揃って頷いていた。
今はもうキャンパスも綺麗に整備され、野良犬一匹いないと聞く。
人面犬ももう姿を見せなくなっただろうか。