「押入れの内側から・・・」
これは数年前、俺の実家がリフォームしていた時に起きた出来事です。
築年数も経ち、ガタがきていた実家を改装することに決まった。
四人家族ですが、親父は単身赴任、兄はすでに結婚して実家を出ていたので、ほぼ家には母と私の2人暮らし状態でした。
リフォームはまずは一階からで、その間、アパートを借りて住むことも考えましたが、それほど生活に余裕があったわけでもない事もあり、一階を改装している間は2階で生活をして一階の改装が終り次に二階の改装中は、一階で生活することにした。
二階には二部屋あり、元から私が使っていた部屋に私が、空いていた部屋に母が生活することになった。
あらかた荷物を外の倉庫や2階に運んだが、一つだけどちらの部屋に運ぶか悩んだ物があった。
「仏壇」だ・・・。
正直、仏壇をこれから半年以上も自分の部屋に置いて生活するのは気が引けた・・・。
しかし、母の生活する部屋は狭くてとても仏壇を置く場所がなかった為、泣く泣く私の部屋に仏壇を置くことになった。
とは言え、罰当たりな事を言うようだが、やはり毎日仏壇を見ながら生活するのは気持ちの良い事ではなかったので、あまり使用してない、私の部屋の押入れにしまうことにした。
今考えるとこれがいけなかった・・・。
最初は私が部屋にいるときのみ、押入れの戸を閉め、それでも一応線香を上げたり手入れをして生活していたのだが、1ヶ月も経つと開け閉めが面倒になり、常に戸を締め切った状態にしてしまっていた。
さらに私は片付けが苦手で、部屋は洋服やらゴミやらで散らかり、仏壇の入った押入れの戸の前もそれらに覆われ、半分くらい塞がれた状態になって行った。
締め切った状態からしばらく経ち、仏壇がそこにある事すら忘れかけていた頃、異変は起き始めた・・・。
それは人生初の金縛りから始まった。
夜中になりなんとなく寝苦しさを感じ目が覚めた。
何事かと思い、暗い部屋を見渡して再び眠ろうとした時、急に体が動かなくなったって驚いた。
本当に体が動かない・・・。
目は開き、眼球は動かせるのだが体は全くうごかない。
よく怖い話とかで聞く状態そのものだった。
私:「やっべぇ、どうしよう・・・」
パニックになりかけていたその時、仏壇がある押入れの扉が「コン・・・!」っと一回叩かれた音が聞こえた気がした。
私:「えっ?」
そう思っていたその直後、金縛りはとけて体が動いた。
夏でもないのに嫌な汗を身体中にかき、気持ち悪かったのをよく覚えている。
だがその日はそれだけで終わった為、仕事で疲れていたのだろうと思ってすぐに再び眠りについた。
それから数日、そんな出来事も忘れかけていた頃、またそれは起こった・・・。
夜中に目が覚め、嫌な予感が全身に走った。
今回は仏壇がある押入れの中から何やら視線を感じるのだ。
幸い押入れには背を向けて寝ていた為、そちらの様子はわからない。
だが何故か得体の知れない何かがこっちをジッと見ている感覚が確かにするのだ。
嫌な汗が全身に染み出してくる・・・。
と同時に金縛りが襲ってきた。
私:「まっ、またか・・・」
体が動かず必死にもがいていると、前回とは様子が明らかに違った。
押入れの中から「コン・・・、コン・・・」っと二回戸を叩く音が聞こえ、そして何か「モゴ・・・モゴ・・・」と誰かが囁いているような声が聞こえてきた。
男なのか女なのかはわからないが「モゴ・・・モゴ」と何かをつぶやいている。
もうこれは気のせいなんかじゃない・・・。
『助けて!』
声は出せないがさらに必死にもがいた。
しかし、金縛りはとけない。
「モゴ・・・モゴモゴ」
声が必死の抵抗の中、少しづつ何を言っているのか聞き取れるようになってきていた。
「モゴ・・・モ・・・ろ、・・・けろ、・・・あけろ」
「・・・開けろ」
はっきりとそれが聞こえた瞬間戸の内側から、「ダン!」と思い切り戸を叩く音が聞こえた。
と同時に、「ギュィィーーーーーン!」と何やら甲高い機械音が家中に鳴り響いた!
母:「これ何の音なの!?こんな夜中に近所迷惑だし、ちょっとあんた様子見てきてよ!」
母は無責任なことを私に言い放った。
私:「知らねぇよ!こっちが聞きてぇわ!」
先程の事もあり、内心ビビりまくっていた私だったが、確かに凄まじく近所迷惑なくらいの爆音は現に鳴りまくっている。
この怪音の正体を勇気を振り絞り確かめに行くしかなかった。
護身用に持っていた。
修学旅行の土産の木刀を握りしめ、ガクガク膝を震わせながらも一歩一歩、一階に続く階段を踏みだした。
階段の真ん中くらいについた時、我が家には丁度階段から廊下、そして茶の間を見渡せるような小窓が付いたので、恐る恐る一階の様子をそこからソーっと覗き込んだ・・・。
音の正体を知り、私は少しだけホッとした。
何てことはない、一階を改装している大工さんの工具で詳しくはわからないが「丸のこ」ってやつが暗闇の中スイッチのボタンを黄色く光らせながら動いていたのだ。
おそらく日中に大工さんがスイッチを切った時に、切るボタンが甘く中途半端な位置で止まってしまい、それが何かの拍子にスイッチがオンになってしまったのだろうと半ば無理矢理思い込み、駆け足で一階に走り降り黄色く光るスイッチをオフにして丸のこを止めた。
丸のこは普通に停止した。
音が止みホッとしていた私を、再び恐怖へと引きづり戻したのは母の悲鳴だった。
先程私が覗いていた小窓から心配していた母がこっちを覗き込んで私の行動の一部始終を見ていたらしい。
母:「ギャャア!◯◯後ろ後ろ!」
最も聞きたくなかったセリフだった。
私は一瞬固まり、脳裏に想像したくないバケモノの姿がよぎりながら心底振り向きたくなかったが、反射的に後ろを振り向いてしまった・・・。
が・・・気持ちとは裏腹にそこには何もいなかった。
たが母は叫び続けている。
私:「何!?何もいないじゃんか!」
焦っていると、母が「後ろ!コ・・・コンセント!見て」と。
嫌な予感がしたが、私は伸びるコンセントの先を目で追った。
予想通り、コンセントは抜けていた・・・。
電源が入るはずがなかったのだ。
その途端に再び悪寒が身体中に走り、私はコケそうになりながら二階へと駆け上がった。
母も半泣きになりながら、「何なの?何で動いてたの!?」と半狂乱になっていた。
私:「俺が知るかよ!わけわかんねぇ!」とかなり取り乱していたと思う。
母の部屋で母に、今まで私の身に起きた事、先程まで金縛りに遇い、押入れの戸を叩く音が聞こえた事、「開けろ」と声が聞こえた事などを全て話した。
母の表情が一瞬曇り、「今すぐ押入れを開けて線香をあげなきゃ!」と言った。
私は正直押入れを開けたくなかったが、こんな現実離れした現象が実際にこの身におきたことから『朝になってからでよくね?』とは言えなかった。
恐る恐る私の部屋に戻り、押入れの前の服やゴミをすぐに片付けて押入れの戸に手をかけた。
一呼吸おいた後、ゆっくりと戸を開けた。
スス~~っと戸が開いて中が見えてきた。
中を見て再び驚いた。
そこには顔が・・・・・・とはならなかったが、中がグチャグチャに散らかっていた。
線香の灰もそこら中に撒き散らしてあり、そこにあった母の父親の写真も倒れて写真立てのガラスも割れていた。
すぐに母と中を掃除して写真立ても家にあったものと交換し、線香を上げ手を合わせて心の底から謝った。
いくら仏壇を粗末にしていたとは言え、こんな事が本当に起きるなんて、オカルトを信じない私は考えもしなかった。
その日を境に、押入れの怪異はなくなった、と言いたかったがそれでは終わらなかった・・・。
毎日線香を上げれば大丈夫だろうと思い、流石に夜は今まで通り戸を閉めて寝ていた。
しかし、私はその数日後、また同じように金縛りに遇い、終わったと思った油断からか仏壇の方向を向いて寝てしまっていた為、見てしまった・・・。
・・・微かに戸が開き、そこからこちらを覗いている押入れの半分はあるであろう無表情でありえなくらい巨大な顔を。
長い為ここまでにしておきます。
私に起きた実話です。
失礼しました。