私の住む集落の近くに、「拾いの滝」という滝がある。
ここに行くと、子供が拾えるのだそうな。
私が生まれたばかりの頃だ。
同じ時期、近くの家にも子供が生まれた。
たしか、男の子だったと記憶している。
長く子供の授からなかった夫婦の、待望の第一子だった。
私と同じ年に生まれたのは、その子だけだった。
その子も私も人並みに順調に育ち、保育園にあがった。
どちらもだいぶぼおっとした子供だったようで、よく一緒に校庭のはしっこでなにをするでもなく並んで座っていたという。
私はこの頃のことを、不思議なほど覚えていない。
だから、そこでなにをしていたのかはわからない。
ある日のことだ。
いつも通り、私たちは校庭でぼおっとしていた。
その頃には先生たちもすっかり慣れていて、私たちのことにはあまり気を使わなくなっていた。
どこにいくわけでもない、おとなしい我々よりも、もっと手のかかる小さな怪獣が園にはたくさんいたのだ。
だが、その日は違った。
ふと気づくと、校庭には私しかいなかった。
一緒にいたはずの男の子は、どこかへ行ってしまっていた。
園は、大騒ぎになった。
瞬く間に大人たちが集まって、その子をさがし始めた。
先生たちが、一緒にいた私のところに来て、男の子がどこに行ったのかと問い詰めた。
「たきにかえった」
私はそう言った、らしい。
残念ながら、覚えていない。
男の子は翌日、「拾いの滝」で見つかった。
助からなかった。
事件か事故か、警察が長いこと調べていたが、結論は出なかった。
たぶん、今も出ていない。
男の子の葬儀の後、その子の両親がこんなことを親類に話したという。
「あれは滝で拾ったのだ」
しかし男の子は、間違いなく母親から産まれてきた。
拾った子などではない。
親類がそう言うと、両親は違うのだと言って、「拾いの滝の滝壺で、石をひとつ拾う。それを一晩抱いて寝ると、子供がお腹に宿る。そういう話を聞いて、試したんだ」
そう言って、おいおいと泣いたという。
「拾いの滝」には、たしかにそういう伝説がある。
けれど、それには続きがあるのだ。
「滝で拾った子供は、神様の子供だ。だから七つになるまでに神様が取り戻しに来る。七つになるまでは、光の差さない部屋に隠しておかないといけない」
男の子の両親は、このことを知らなかった。
ところで拾いの滝だが、昔はよく、上流から水死体が流れ着いたという。
上流は今は綺麗に整備されたか、それまでは事故の多い場所で有名だったのだそうな。
だから、こんな話もある。
拾いの滝で拾えるのは、死んだ誰かの魂だ。