学生の頃、その場で現像のできるインスタントカメラに熱中してた。
ぶれや暈し、光の飛んでる具合なんかが凄い写真を撮ってると錯覚させるんだよね。
結果、拗らせた俺はクラスの何人かに撮った写真をサイン付きで配りはじめた。
奇行はしばらく続いていたけれど、フィルムの値段が高いのもあって止めようかと悩んでいたとき
交流の少なかったノグチが何処からか聞き付け「俺には無理だったから」と真新しいフィルムを渡してきた。
空かした俺はノグチに「写真は才能がないとね」と息巻いていた気がする
それからノグチと一緒に遊ぶことが増えた。
遊ぶといっても、俺は写真を撮りに山や川へ自転車を走らせ、ノグチは俺の撮った写真をその場で受けとる為だけに来ている様子だった。
初めて出来たファンに最初は浮かれていた俺も、気味が悪い奴だと次第に思うようになった。
ある日、いつも撮っている山へと二人して向かい、いつものように俺は写真を撮る。
ノグチは腰かけてじっとしていた。
何枚か現像した写真を渡すと、ノグチは初めて写真を名刺フォルダのような物に収納しようとした。
俺はそんなの持ってたっけ?と、ノグチの手から勝手に取り上げた。
ノグチは何も言わなかったと思う。
中身は俺がノグチに配ってない写真も含まれていて、全部の写真に赤いペンで丸を囲ってた。
気味の悪さと写真をペンでイタズラされた怒りが混ざって、何でこんなの持ってきてるんだ?と検討違いなキレかたをしたと思う。
ノグチからは「もう揃うから」と返しになってない返答を受けた。
俺は今でもあの時、血の気が引いていってのを覚えてる。
ノグチはフォルダを捲って、赤ペンで囲ってある光を指差して「これ俺のママ」と言った。
そう言われるとそう見えてしまう自分がいた。
光の粒は写真を撮るごとに肥大し大きくブレ、それが人の身体の曲線に思えたし、時折写り混む赤い点が笑う口元にも見えだした。
ノグチは俺の心情を理解しているのか、捲るたび「ね?」としか言わなくなった。
俺は怖くて退くことも押し退けることもできなかった。
ノグチはさっき仕舞い忘れた数枚を覗いて「俺が撮るのだとママは写らないの」と笑った。
俺は初めて声を掛けられた時の事を思い出した。
男の人達の声がしたのもその時だった。
その山はわりと舗装されていて、夕方になれば野球部が部活で走るルートになっていた。
何週しても二人してじっとしていたから、不思議に思って声をかけてくれたそうだ。
理由は何であれ今でも本当に感謝をしている。
ノグチの方を振り向くと、目があった。
フォルダは閉じられていてノグチは一言「もう揃った」と言って先に帰っていった。
それからノグチは用が無くなった俺に話しかけてくることはなくなった。
急に関わりを絶ったので周りから質問攻めにあったけれど、女子のノグチって父親が再婚してからちょっと付き合い悪いよねの一言でみんな興味を失っていった。