知り合いの話。
彼の実家のある山村では、よく狐憑きが発生したのだという。
「私も祖父に聞いたことがあるだけで、実際に目にした訳ではないけどね。何でも村の伝えによると、昔の村民たちが地の狐たちと諍いを起こしたらしい。それ以来事ある毎、狐に目の敵にされたのだとか」
「面白いと言っては何だが、あまりにも憑かれたせいか、経験値が高くなったようでね。対処法というのがちゃんと確立されていたんだ。“狐憑きが発生したら、ヤマシロで作った艾で灸を据える”と、そういう流れになっていたらしい。狐はヤマシロの薬効が大の苦手で、すぐに落ちて元に戻るという話だ。祖父自身は経験しなかったが、親戚が何人か灸でヒィヒィ言っていたのを見たって」
「ヤマシロって何ですか?」
わからなかったので聞いてみた。
「大麻のことだよ。狐はどうやら、大麻の匂いというか成分が駄目みたいだね。今は栽培も厳しく規制されているし、とても艾なんて作れないけど。狐憑きも出なくなったみたいだし、まぁこれも時代の移り変わりなんだろうね」
そう言ってニコニコと笑っていた。