僕の地元に死の三町目と呼ばれる場所があったんです。
K町の三町目。
なぜ死の三町目なんて呼ばれているかと言うと、平和な田舎町にあってこの地区にだけ異様な死亡事件が度々起こるからです。
三町目の噂は退屈な子供達の絶好の話のタネになっていました。
小学校一年生の時、三町目に暮らすクラスメートのT君の一家が事故で亡くなりました。
それがきっかけだったのか、それから三町目では悲惨な事件が相次ぎました。
中年女性が地元の中学生に殺されたり、一人暮らしのお婆さんが自宅で変死しているのを発見されたり・・・。
また、三町目に越してきたある一家は越してきてすぐ交通事故で全員亡くなりました。
反対に三町目から別の場所に引っ越した一家が交通事故で全員亡くなるという事件もありました。
酷い事件はまだありましたが、僕がはっきりと覚えているのはこのくらい。
実際にニュースに取り上げられる事件、真偽のわからないただの噂話もありましたが、三町目には何か嫌なモノがある、子供達はみんなそう考えていました。
通学路をわざわざ遠回りをして三町目を避けて学校に行き来するような子も結構いました。
そんなK町三町目に住んでいた友人M君。
彼とは小学校、中学、高校と同じでずいぶんと長い付き合いになりました。
高校の時、M君の同居していたおばあさんが病気で亡くなり、お葬式で何日か学校を休んでいたM君。
学校に登校した後もなんとなく元気のない様子でした。
おばあさんを亡くしてしばらくたってから、M君は僕におばあさんの話をしてくれました。
M君はおばあちゃんっ子で、小さい頃とても可愛がってもらっていたそうです。
M君が高校にあがってからおばあさんが病院に入院することになりました。
おばあさんの体調は良くならず、ずっと入院生活が続いていたそうです。
ですが、遊びたい盛りのM君は毎日友達と過ごしてばかり、おばあさんのお見舞いには殆どいかなかったそうです。
そんなある日、おばあさんの容態が急変して病院で亡くなってしまったそうです。
自宅に運ばれたおばあさんの遺体、久しぶりに見たおばあさんの顔。
もう動くことも喋ることも出来ません。
どうして会いにいってあげなかったんだろう?お見舞いに行く時間はたくさんあったのに。
M君はそのことをとても悔やんでいました。
おばあさんが亡くなった日の夜、M君は夢を見ました。
夢の中にはおばあさんがいました。
おばあさんはM君の手を握って、そのまま霧のようにフッと空に向かって消えてしまったそうです。
そこで目を覚ましたM君、天井に向かって手を伸ばしたまま涙を流していました。
手を握られていた感触が確かにあったそうです。
M君は、おばあさんがきっとお別れを言いにきたんだって、そう思ったんだそうです。
「でも、その夢何回も見るんだよね。」
M君は言いました。
家族とは言え死んだ人の存在を感じる、それが何回も続くのはやっぱり結構怖いよってM君が語っていたのは、たしか高校三年生の冬。
学校からの帰り道だったと思います。
高校を卒業すると僕は上京して東京の大学へ、M君は地元の国立大学へと進学しました。
上京してからM君を含め地元の仲間との連絡は次第に減り、一年を過ぎる頃には殆ど地元の友達と連絡はしなくなりました。
ちょうどその頃でしょうか、M君から電話がかかってきたのは。
久しぶりに話す幼なじみとの会話は盛り上がり、1時間ほど話をして、今度の休みに実家に帰るから飲みに行こうと約束をして電話を切りました。
その数日後、今度は高校時代の別の友人から電話がありました。
「Mが亡くなっちゃったんだって。」
静かに、悲しそうに彼はそう言いました。
フェンスを乗り越えて線路内に侵入、そのまま電車にひかれてしまったんだそうです。
買い物帰りだったんでしょう、M君の乗り越えたフェンスの外側には、その日M君の買った洋服とCDが置いてあったそうです。
状況からM君は突発的な自殺をした、そうゆうことになりました。
なんだか騙されているような気分でした。
ついこの間電話で話したばかりなのに・・・。
次の休日、僕は実家に戻りM君のお葬式に参列しました。
遺体の損傷が激しかったんでしょう、亡くなったM君の顔を見ることは出来ませんでした。
飾られていた写真はM君の高校時代のもので、それを見て初めて僕はM君の死と、友人を失った悲しみを実感しました。
お葬式の時、高校時代からのM君の彼女と話をしました。
M君の死から数日過ぎていましたが、彼女はM君の死を受け入れていたんでしょう、お葬式の間、彼女は涙を見せることはありませんでした。
彼女が言うに、M君は亡くなる前、特に何かを悩んでいるとか、人間関係が上手くいっていないとか、そんなことは全くなかったそうです。
「Mが自殺したなんて思えない。」
彼女はそう言っていました。
M君は自殺するような奴じゃない、そのことは付き合いの長い僕にもわかっていました。
ただ、僕に電話をかけてきた数日前、M君は自分が死ぬことがわかっていたんじゃないかな?
小学校の時、一度だけ僕はM君の家に遊びに行ったことがあるんです。
子供達から死の三丁目と呼ばれる場所にあるM君の家。
夕方の帰り道、夕日に照らされた灰色とオレンジ色の三丁目の街並みが僕にはとても不気味に、嫌な感じに見えて、早くこの場を離れたい、そう思って急いで家に帰ったのを覚えています。
小学三年生の時隣の席だった霊感少女Aちゃん。
彼女曰わく、「三丁目には嫌なモノが集まっている。そのせいで死んだ人の霊があの場所にいると嫌なモノになってしまう。そしてまた嫌なことが起こる。」
きっとM君はおばあさんに連れて行かれてしまったんだ。
そう考えるのはあまりに強引なこじつけかも。
でも、あの日の、三丁目の夕日を思い出す度に僕はそう思えて仕方がないのです。