祖母から聞いた座棺の話です。
座棺とは明治頃まで使われていた座った姿勢で納める棺の事です。
祖母は大正生まれでしたが、祖母の田舎ではこの座棺がまだ使われていました。
祖母が子供の時に近所に『わったっせ』さんという40代の後家さんが住んでいました。
このわったっせさんの本名は原田で、何故わったっせさんと呼ばれてたのかは分かりません。
わったっせさんはかなり大柄で、女性なのに身長が6尺はあったらしく、祖母が住んでた村でもわったっせさんより大きい人は男性でもいませんでした。
ある日、わったっせさんが道に立ったまま動かないので、近所の人が声をかけると、わったっせさんは亡くなっていたそうで、死因もよく分からなかったらしいです。
村の人が葬儀をするために棺を注文したのですが、女性だと聞いた棺屋が小さめの座棺を持って来てしまい、わったっせさんの体が入らなくなりました。
通常、遺体が大柄だったり硬直が激しかったりすると、棺に納めるために手足を折ったり、時には首を折る事もあるそうでわったっせさんも体を分割される事になりました。
その様子をこっそり見ていた祖母は「後にも先にもあんなに悲しい思いをした事はない」と言いました。
それは手足をもがれ、ダルマのようになったわったっせさんの首を、村の男衆が鎌で切り離していた時です。
突然わったっせさんの目が見開き「首はこらえてえ。私、死んどらんかったのに」と言ったそうです。
その場にいた人達は驚いて手を合わせ震え出しました。
わったっせさんはいわゆる拝み屋で、その時も魂だけが抜けていて死んだわけではなかったらしいのです。
「もう仕方がない死ぬしかない。だけど首だけは離さんといて下さい」と言ってわったっせさんは涙を流しました。
そのままゆっくり目を閉じて最後に「次の体はどれにしよ」と言ったそうです。