昔から体が丈夫でなくて、季節の変わり目にはほぼ体調を崩してしまう。
この前もいつものように風邪を引いて寝込んでた。
熱は37度ちょっとだったんだけど、だるくて痛くて意識が朦朧としてた。
朝おかゆを食べていつの間にか寝てしまっていたらしく、窓ガラスのサッシが開く「ガラッ」って音で目が覚めた。
最初は「お母さんが窓を開けたのかな」とか思っていたけどそれはない。
その日は母はパートで夕方まで家にいないはず。
お父さんが出勤する車の音も聞いていたし、姉と妹も出かける前に様子を見に来ていたので、今家にいるのは私とペットたちだけのはずだった。
開いた窓へ顔を向けると、窓枠に黒い靄がかかっていた。
それはおぼろげながら人の手のような形をしていた。
ぞわっと総毛立つ感覚がして「ヤバイ」と思い、逃げようとしたけど体が重くて動けない。
その靄はゆっくりと部屋の中へ入ってきていて、そいつは全身墨がにじんだような人型だった。
ついにその靄は私の部屋に降り立ち、私の横たわるベッドへとにじり寄ってきていた。
「ヤバイヤバイヤバイ」
ただそれだけ思って必死に動こうとした。
そいつの手が私に伸びてきたとき、ドアが「バン!」と開き、ペットのミニチュアダックスが普段出さないような吼え方で飛び込んできた。
その鳴き声を聴いた瞬間、体が動くようになってベッドから転げ落ちてはいずるように部屋から出た。
後ろではダックスがギャンギャンと吼え、私をかばっているようだった。
階段を下りて一階へ逃げようとしたが、階段に足を取られ転げ落ちてしまい、背中を打った痛みで動けずうずくまっていると、そいつは階段を下りて私のほうへと向かってきてた。
相変わらずダックスは吼え続けていたが、そいつは気にも留めずに私のほうへとゆっくりと進んできていた。
逃げたくても痛みで動けず、そいつに追いつかれてしまい、そいつは私のあごを片手でつかむと無理やり口を開かせてきた。
あごが割れるんじゃないかと思うくらいの激痛が走り、もがいて抵抗したが、そいつはまったく意に介さず、もう片方の手を私の口にねじ込んできた。
ミリミリと自分の口の端が裂けていっているのがわかった。
激痛と悪寒でどうにかなりそうだったが、その時になってようやくそいつが何かつぶやいているのがわかった。
そいつは「欲しい欲しい」とつぶやいていた。
もうすでにそいつの腕が方の付け根まで私の「中」にねじこまれていた。
「もうだめだ、ここで私はこいつに殺されるんだ」と半ばあきらめかけた時、インターホンが鳴った。
その瞬間意識が途切れ、目覚めると病院のベッドに寝かされ、そばには両親がいた。
私が目覚めると両親は泣き崩れながら私にすがり付いてきた。
話を聞くと、あの日私は41度の高熱を出して階段の下で昏倒していたらしい。
そして私が目覚めたのはあの日から3日も経っていた。
体に異常はないけど、口の両端が2cmほど裂けていた。
まるで、無理やりこじ開けられたように。
私があの日体験したことは高熱にうなされた夢だったのか、それとも本当に私の体を乗っ取ろうとした何かだったのか・・・。
できれば前者であると思い込みたいです。