住民から聞いた話。
彼女の旦那さん、お風呂に入っている時に、必ず歌を唄っているのだという。
「それも加山雄三ばっかり。♪海よ~俺の海よ~♪って下手っぴぃな大声でね。一人で入ってる時に限って歌ってるから、この前ふと尋ねたの。何で一人の時は唄ってるのって」
旦那あっさり答えて曰く。
「いやぁ、一人で頭洗ってるとサ。時々誰かが上から押さえてくるんだわ。こうグッとね。ちょっと怖いけど、頭洗ってるから目開けられないだろ。だから押さえるのが来たら、鼻歌唄って誤魔化してるんだ。試した中では、若大将が最強。すぐに居なくなる」
「・・・ちょっと何よそれ!?」
思わず問い詰めたが、旦那さんは肝心の犯人の姿を見たことはないという。
「だって見えたりしたら怖いじゃん。見ない振りして歌ってたら、向こうもすぐにどっか行くし。大体今のうちの経済状態って、余所の物件買い直す余裕なんて無いだろ」
これまたあっさりとそう述べた。
そいつが出ているのは旦那の時だけに限るようなので、結局、彼女も気にしない
ようになったらしい。
「鼻歌が聞こえる度に、あぁまた頭押さえ付けられてるなぁって思うのよ。何なのかしらアレって?・・・まさか女の幽霊じゃないでしょうね」
妬いているように見えたのは、私の気のせいだと思いたい。