ある都市の郊外で全身に無数の釣り針が刺さった犬の死体が発見された。
近くに住む男性が飼い犬の散歩中に発見して、酷い虐待事件として近所の噂となった。
犬の毛は血で染まっており、皮膚は所々破れている状態であった。
また犬の体に刺さった針には釣り糸がついていて、糸は途中で切断されている様子であった。
「誰がこんなことを?」
憤る住民も居たが、誰がやったのかは分かる人には分かっていた。
事情を知る人は「どうせやられたのは野良犬だから放っておけ」
そういって憤る住民を諌めるのであった。
野良とは言え生命ある動物である。
むごたらしく殺されては犬好きの人にとっては許し難い。
納得できていない様子の住民に対して、「どうせあそこに住む人たちだろうよ。大人もみんなグルだから関わらんほうがええよ。」と、事情を知る住民は意味深なことを言うのであった。
あまりおっぴらに出来ない話ではあるが、以前に虐待現場を見た人が居るということだ。
その現場にたまたま遭遇した人の話によると、10人くらいの人が釣り竿を持って犬を囲み、釣りの要領で犬に針を掛けるのだという。
そして全員が力任せに竿を引っ張ったり、リールを巻いたりして釣り針の刺さった犬を引っ張り回して痛ぶり傷つける。
痛みを訴える犬の鳴き声、虐待を行う人々の異様な熱気、その光景は惨過ぎて見ていられない程であったとか。
釣り具を使った嬲り(なぶり)は犬が死ぬまで行われる。
なぜいい大人がこの様な残虐行為を行なっているのかというと、彼らの信仰に関わる話で、彼らが信じる神域を侵したというのが理由らしい。
彼らは猿神を祭る集団なのだという。
猿は犬を大変嫌うので、猿神を祭る社の付近に犬が近寄ることは厳禁ということだ。
もしその付近で犬を見かけたら、村人への祟りが無いようにと犬を嬲り殺すのだという。
猿神に見せつけるがごとく痛めつけられて殺された犬は、普通は彼らの手によって焼かれて処分されるのだが、今回見つかった犬は郊外まで逃げて来て息途絶えたものらしい。
事情を知る住民は更にこう続けた。
「奴らが信じる禁忌を犯したら、人間だって何されるか分かんねえよ」。
それを聞いて、犬好きの住民は憤る気持ちが只ならぬ恐怖へと変わったのだった。