あれは、5年前のちょうど今頃のことでした。
私は、大学を卒業後、就職もせず、しばらくぷ~たろうな生活をしていました。
そんなある日、自宅でゴロゴロしていると大学時代の友人から電話があったのです。
久しぶりに、酒でも飲まないかということでした。
翌日、友人に会いに私は近くの居酒屋に向かいました。
時間は、もう夜の11時を過ぎていましたが、どうせ朝までコースになるんだと思い、あえて遅い時間にしたのです。
店に着くと、友人はまだ来ていません。
私は、とりあえずビールを注文し友人を待つことにしました。
しばらくすると、わたしの携帯が鳴りました
友人からです。
電話に出ると友人は実は今、居酒屋の近くまで来てるのだが店に向かう途中の公衆電話に、妙な女がいるというので、とにかくすぐに来てくれということでした。
「何を言ってるのだろう、こいつは?」とは思ったのですが昔から、妙な事をよく言う男だったこともあり、わたしは、面白半分で友人のところに行くことにしました。
公衆電話の近くまで来ると、友人が電柱のところで隠れながら女を観察しているのが見えました。「ほんと、馬鹿だなこいつは・・・」と思いながらも私は友人のところへ向かいました。
「何やってんだよ?」
そういうと友人は、なぜわたしに電話したのかを話してくれました。
話によると、友人がわたしに会いに居酒屋へ向かう途中、いきなりあの女が路地から走ってきて友人にぶつかって倒れたそうです。
その時、女は足にケガをしたらしく少し血が出ていたようで友人が、「あの~大丈夫ですか?」と声をかけると女は、何も言わずにあの公衆電話に凄い勢いで、走り込んだらしいのです。
友人は、警察に電話でもされるのかと焦ったらしく、女のいる公衆電話に近づこうとしたのだが女は電話をする様子もなく、ただ公衆電話でうつむいたままじっと立っているだけだというのです。
あまりに不可解な女の行動に、どうしていいか分からず私に電話したという事でした。
とりあえず、ケガさせてしまったんだから、このままほっとく訳にもいかないしな
ということになり、二人で女のいる公衆電話に向かいました。
公衆電話の側まで来ると、確かに女の足から血が流れているのが見えました。
よく見ると、靴が血で染まるほどの出血で、責任を感じたのか友人は慌てて公衆電話のドアを開けたのです。
「ちょっと、あの大丈夫ですか?すごい血が出てるみたいだけど・・・」
その時、わたしには、友人の声が少し震えているのが分かりました。
しかし、友人の問いかけにも、女はまったく反応せず下を向いたまま黙っていました・・・。
しばらく、沈黙が続き・・・たまらずわたしも女に声をかけました。
「とにかく、病院行ったほうがいいですよ、かなり出血してるみたいだし。すぐそこに病院あるから、行きましょう」
しかし・・・女は・・・うつむいたまま・・・黙っていました・・・。
この女は、何か変だ普通じゃないな、そう思って友人を見ると、友人もそんな表情でわたしの顔を見ていました。
その後、二人で話し合い、とりあえず救急車を呼ぶことにしたのです。
そして、わたしが救急車を呼び、場所を伝えて電話を切ると、友人がわたしの肩を叩きました。
振り返ると、公衆電話にいた女が消えていました。
「あれっ、どこいった?」
そういえば、友人も姿が見えません。
慌てて辺りを見渡すと、友人が路地の奥へ走っていくのが見えました
おそらく、友人が女を見つけて追いかけていったのだと思ったわたしは、友人の後を追って路地へ向かいました。
とにかく、全速力で友人の後を追って・・・。
しばらく、行くと友人が左に曲がるのが見えたのでわたしも、後を追って左に曲がったのですが、そこで、友人を見失ってしまったのです。
友人のすぐ後を追って曲がったはずなのに、そこには誰もいませんでした。
「そんな馬鹿な?」
しばらくわたしは放心状態で何がなんだか分かりませんでした。
とにかく友人を探さないと・・・。
そう思って、しばらく辺りを探したのですが、結局友人も女も見つけることが出来ませんでした。
わたしは、どうすることも出来ず、元いた場所へ戻ったのです。
すると、救急車が来ていました。
そう、救急車を呼んだことをすっかり忘れていたのです。
救急隊の人が、救急車の側にいるのが見えたので、わたしは事情を説明しようと、救急車へ向かいました。
側へ行くと、救急隊の方がわたしに話しかけてきました。
「あなたですか?電話されたのは」
「はい、そうです。すいません、実は、ケガをしていた彼女がいなくなってしまいまして・・・一緒にいた友人もいなくなったものですから、探していたんですよ」
わたしがそう言って事情を説明するとなぜか救急隊の人が、不思議そうな顔でわたしを見ていました。
「あの~おっしゃってることがよく・・・分からないのですが・・・」
「えっ?」
「とりあえず、確認してもらえますかね」
そう言われて、救急隊の方に連れられ救急車の中を覗いた時、わたしは信じられないものを目にしました。
中にいたのは・・・あの女と友人でした。
救急隊の話では、着いた時には既に即死状態で二人とも公衆電話にもたれかかっていたそうです。
今でもこの経験は自分の中でも納得がいってません。
友人は何かを伝えたかったのでしょうか。