※このお話には後編があります。
これから話すのは友人からの伝聞だ。
まるで見たかのように話す所もあるが勘弁してもらいたい。
では本題だ。
今のようにジメジメとした梅雨の時期だ、友人の高村から一本の連絡があった。
高村:「久しぶりに会わないか?聞いてもらいたい事がある」
就職で京都にいる高村とは連絡も途切れ、半ば疎遠となっていたが、「聞いてもらいたい事」と深刻な赴きを感じた俺は二つ返事で了解した。
内容に入る前に軽くだが説明を挟ませてもらう。
高村とは高校大学ともに一緒で今思えば気味が悪い位に仲が良かった。
だが周りから見たら俺と高村はどうみても友人同士として釣り合いがとれないように見えただろう。
高村はルックス、センス、運動神経、頭の出来、どれをとっても一流だった。
そんな高村に比べ、俺はこれといった才能も無く、本当にごくごく平凡な男だ。
そんな違い過ぎる俺達だが一つだけ共通点があった。
それは恐怖体験談が好きという一点だ。
それも一般的に知られるような心霊体験では無く、人間に関する物だ。
皆が皆では無いだろうし、間違った考え方かもしれないが、俺達はこんな考えを持っていた。
「心霊現象というのは根源的な恐怖だ。得体のしれない謎に満ちた物を恐れるという根源的な物だ、俺達は人間に秘められた狂気的な恐怖を求めている」
心霊を否定している訳ではない。
けれど俺達は人間の中にある狂気を求めていた。
だが因果なもので今から話す事は心霊現象だ、真実かは分からない・・・。
俺に確かめる術は無い、だが何かがあったのは間違い無いと俺は考えている。
少し長くなったが内容に移らせてもらう。
数年ぶりに会った俺達は話しもそこそこに居酒屋に向かった。
久しぶりの再会を祝おうと少し高い酒を頼んだのだが、何故か高村はあまり進んでいなかった。
俺:「お前どうかしたのか?好きだったよな酒?」
高村は苦笑いしながら一口だけ飲み、また手が止まった。
余りに前と違う高村を見て、やはり環境が変わると人も変わるのか?・・・と少し淋しげに考えていた。
会話も途切れ途切れになり沈黙が多くなる中で高村のある行動が目についた。
それは一人一人店内の女性を確かめるかのように見つめていた。
俺は変わってない所を嬉しく思い「この変態がwそんな所は変わらんなw」と高村を茶化すと、溜め息混じりにこう言った。
高村:「俺は本当に・・・やったらいけない事をしたのかもしれない・・・」
俺は???となったがそこから高村はぽつぽつと話してくれた。
京都へ行った高村だったが京都での生活は合わず、仕事でもミスばかり繰り返していたようだ。
一人暮らしで荒れた生活だった事もあり、かなりのストレスを抱えていた中で高村の唯一の楽しみは冒頭で述べたように恐怖体験談を読みあさる事だけだった。
そんな億劫な毎日の中で高村は一つの考えに辿りついた。
俺も人間の狂気に触れてみたい・・・。
今思えば何処か壊れてたんだろうなと高村は語っていた。
高村が考えて導き出した答えは、狂気を生み出す原因の一つ『嫉妬心』を利用する。
つまりは浮気をする事だ。
恵まれたルックスを活かし、何人もの女性と股をかけ、しかもわざとバレるような振る舞いをしていたようだ。
だが全く上手くいかなかった。
皆が一様に浮気がバレる前に離れていくか、バレたらバレたであっさり終わりの繰り返しだった。
それでも高村は諦めずに繰り返し女性との関係ばかりを求めた。
そんな中、高村は一人の女性と出会った、由美さん(仮名)という女性だ。
由美さんは浮気がバレても高村から離れていく事も無く、高村を本当に好きでいてくれたみたいだった。
そんな由美さんを高村自身も本気で好きになった。
それからは由美さん以外の女性関係を絶ち、由美さんの支えもあり、生活も仕事も上手くいって、高村は本当の意味で苦難を乗り越えたようだ。
だがその幸せも長くは続かなかった・・・。
ある晩の事、余りの寝苦しさに高村は目を覚ました。
その日は由美さんが泊まりがけで高村の世話を焼いてくれたらしく、一緒に床についていたらしい。
時間は午前二時・・・そう丑三つ時と呼ばれる時間帯だ。
高村は目を覚ましたはいいが金縛りのように体は動かず、動かせたのは目だけだった。
普段の疲れがある為、大して気にも留めず眠れるようになるまで天井を見つめながらボーっとしていた。
時間にして10分位だろうか、高村はある事に気付いた。
誰かが部屋を歩く気配がする・・・。
部屋の角にベッドがあり、壁側で寝ていた高村は気付かなかったようだ。
高村:「こんな時にマジかよ・・・空き巣だったら洒落にならんぞ・・・」
そう考えた高村は必死に目を動かし、歩いている者を目で追った。
それは女だった、しかし様子がおかしい・・・。
女は歩き回るだけで何かを物色している感じでは無かった・・・。
異様な光景に高村は女から目を離せずにいると、今まで歩き回っていた女は急に立ち止まり、高村達の方へフラフラと近付いてきた。
女はベッドの前で立ち止まり、由美さんの顔を俯くように見つめていたらしい。
高村は恐怖もあったがそれ以上に『由美さんに何かあったら』とずっと女を睨みつけていた。
そして数十秒程女を睨みつけていると女はゆっくりと顔を高村の方へ顔を向けた。
高村は女の顔を見た瞬間心臓が止まるかと思う程に驚愕した。
部屋の明かりは豆電球だけだったが、豆電球の赤さと無関係に女の顔は赤かった、
まるで朱で塗られているかのように・・・。
女は高村を見ると、見るからに醜悪な笑顔を浮かべ、部屋を出て行った。
しばらくして自然と金縛りが解けた高村は玄関へ行き鍵とチェーンを確認したが何かされた様子は無かった。
由美さんを起こして話そうかとも思ったが、見てもいない由美さんを怖がらせる必要は無いと思い、
その日は毛布に包まって必死で忘れようと眠る事に努めた。
高村はいつの間にか寝ていたのか、アラームの音で目を覚ました。
由美さんはまだ寝ていた、いつもなら自分より早く起きて出勤の為の用意をしてくれているのだが珍しくまだ眠っているようだ。
高村:「疲れが溜まっているのかな?」
そう考え、起こさずに身支度を整え高村は静かに家を出た。
その日、由美さんから連絡は無く、いくらなんでも寝過ぎだろと思ったが、万が一寝ていたならと高村から連絡を入れる事はしなかったようだ。
仕事も早くに終わり直帰したが由美さんはまだ寝ていた。
「やっぱりか、寝過ぎだろw」と高村は由美さんを起こそうと由美さんの腕に触れた。
その瞬間、高村は凍り付いた・・・。
由美さんの体が異様に冷たく、そして息をしていなかった・・・。
高村は直ぐさま救急車を呼んだり、人工呼吸など施したが由美さんは助から無かった。
死因は『心不全』だと医者からしっかり説明して貰ったらしいが、体は丈夫で元気の良かった由美さんが何故?という気持ちは拭えなかった。
それから高村は会社にも行かず、自宅に引きこもっていた。
そしてあの晩の事をずっと考えていた。
もしかしたらあの女が・・・と頭から離れなかったからだ。
高村は決心し、町の拝み屋の所へ行った。
高村はどうしても由美さんが死んだ本当の理由を突き止めたかったからだ。
拝み屋は初老の女性だった。
高村は事情を説明し、あの晩の事を詳しく拝み屋に説明した。
すると拝み屋は何も言わず祭壇の用意を始め高村にこう尋ねた。
拝み屋:「今から神懸(神憑?)を行いますが、貴方の考える物とは違う結果が出るかもしれません、それでもよろしいですか?」
高村は迷わず頷き、神懸の儀式は始まった。
高村は決心を固め真実を確かめようと拝み屋を真っ直ぐに見つめていた。
つづく・・・。