一時期、OL達の間で流行った噂。
ミナ子が、新しく買った口紅の蓋を開けると、リップスティックの中から黒い生物が転がり出た。
ミナ子は悲鳴を上げてその場を離れた。
遠くから観察していると、その生き物はよろよろと立ち上がった。
人の形をして、頭には突起の様なものが付いている。
しかしその姿はあまりにも弱々しかった。
その小さな鬼は、人に害を与えるような力を持っていない事が解った。
掌に載せて眺めてみると、動く様子はぎこちなくて意外と可愛らしかった。
マスコミなどに知らせてもつまらない。
ミナ子は小鬼をペットとして飼う事にした。
小鬼は口紅を食べて生きているらしい。
出社の時、ミナ子はリップスティックをしっかり閉じる。
帰宅して蓋を開け、鬼が転がり出てくるのを見るのが楽しみだった。
鬼は最初、小さく丸まっている。
指でつつくと次第に立ち上がる。
ミナ子は頭を撫でたりして可愛がった。
ある日、急な残業で、彼氏がデートに来られなくなった。
早めに帰宅したミナ子は、苛ついた気持ちで煙草をふかす。
急に小鬼の無様な姿が憎らしくなり、ミナ子は鬼の背中に煙草を押し付けた。
黒い生物は、声も立てずに身悶えし、それを見てミナ子は冷笑した。
それからミナ子は、憂さ晴らしに鬼をいじめるようになった。
針で突き通したり、ゴムを弾いて痛めつける。
逆らう様子も見せない鬼は、身をよじらせながらも、逃げようとはしなかった。
最近、彼が冷たい。
多忙を理由にデートを拒み、もう一ヶ月も会っていない。
電話では普通に話しているが、なんとなく怪しい様子だった。
何か隠している。
その怒りを、ミナ子は小鬼にぶつけた。
いくら痛めつけても、鬼は死ななかった。
ミナ子は覚悟を決めた。
彼の部屋に乗り込み、隠し事の正体を暴くのだ。
部屋を訪ねると、彼は困惑した顔をしていた。
電話の様子と明らかに違う。
ミナ子は彼を問いつめた。
泣きながら訴えると、遂に彼は正直に打ち明けると言った。
「理由は……これだよ……」
部屋の中にミナ子を招き入れた彼は、急にパンツを下ろした。
そのペニスには、煙草の火に焼かれ、針で貫かれた痕が醜く残っていた。