とあるビデオ屋のワゴンセールで100円のビデオを見つけた。
タイトルは『ハンマー』。
ケースも無い為内容などは一切分からないいが、興味を持ち買ってみることにした。
その夜、早速ビデオを再生すると、いきなり本編が始まった。
どうやらどこかの道を走っているらしい。
カメラは走っている者の視点で、ただひたすらどこかの街を走りながら写し出だしている。
『なんだ、100円でも高そうだ』
そう思いながら、流しっぱなしにしてパソコンを始めてしまった。
画面は、上下に小刻みに動き「はあはあ」と走っている者の息遣いが聞こえ進んでゆく。
その時画面を見ながら俺は妙な違和感を感じ始めていた。
『俺、ココの道見たことあるかも』
ロケ地が知ってる街なら、楽しめそうだとパソコンを止め見ていると、どうやら場面は住宅街に入ってきたようだ。
『え?・・・ここって。』
そう思ったところで画面が止まった。
どこかのアパートの前のようだ。
そして画面はまた動き出し、一番奥の部屋の前で止まった。
表札には見慣れた名前が書いてあり、ドアの横には、さっき乗ってた自転車が置いてある。
「俺のアパートじゃないか!」
『ドカ!!!』
そう叫ぶと同時に部屋のドアが激しく音を立てた。
画面を見ると何者かがハンマーでドアを激しく叩いている。
音と画面は完全にシンクロして、画面のドアが叩かれれば俺の部屋のドアも激しく音を立てる。
パニックで動けないでいると、玄関のドアに穴が空いて向こうが少し見えた。
そこには血走った目で、こちらを覗いている男が居るではないか・・・。
また画面を見るとテレビを見てる俺が写ってる。
「ひっ!」
その時、思わず飛びのいた俺はリモコンに触れてしまったようで、ビデオのスイッチが切れてしまった。
しん、と静まり返る俺の部屋。
ドアからは、もう音はしない。
恐る恐るドアを開けるが、誰も居ない・・・。
俺は隣の人に事の状況を説明し無理やり俺の部屋の前に連れて来たが、確かに穴の空いたはずのドアが、今は何も無かったかのように元に戻っている。
隣人は「夢でも見たんだろ」と言い、さっさと部屋に戻ってしまった。
俺も自分の部屋に入り、ビデオを取り出してみる。
タイトルは『ハンマー』。
ちゃんとある。
しかも中ほどまでテープは進んでいる。
夢ではない。
俺はソレを持って部屋を出るとビデオ屋に行きテープを返してきた。
店員が「代金は?」と聞いてきたが、「いりません!」とだけ言い、その足で友達の家に転がり込んだ。
それ以来俺は、ビデオは見ない事にしている。