だるま愛好者の犠牲にされた女。
獣の毛皮を着た女を輪姦するショー。
見世物にするために誘拐される子供。
見世物小屋、特に昭和50年以前の日本に存在したような小屋や、都会の外れにひっそり存在する様な怪しげな店は、よく「だるま女」などの都市伝説や怖い話に登場します。
社会福祉が発達する前の日本では、身体障害者が生活手段として、舞台出演をしていたそうです。
中世ヨーロッパでも畸形児が見世物にされ、アジアでは達磨などを生むための身体改造で、生き残った者が最後に行き着く場所の一つだったという見世物小屋は、猟奇・犯罪系の綺談の舞台にぴったりだからかもしれませんね。
最近、友人と趣味で怖い話を集めてる時に、見世物小屋にまつわる初耳の話を見つけたので投稿します。
大学生の加東さん(仮名)と折原さん(仮名)は、2回生の夏休みに中国を訪れていました。
テレビで紹介された市場や映画の舞台となった場所を見歩き、楽しく充実した一日を終えた加東さん達。
そろそろホテルに戻ろうと思ったのは、閉店が多くなった時間帯でした。
「今日は楽しかったなー」
「ああ。彼女と二人とかだったらもっと最高だったかもしんないけど」
「今更そんなん言うなよ」
軽口を叩き合いながら、二人はまだ人通りのある街中を歩いていました。
途中、道に迷わないよう地図を見ていた折原さんの提案で、昼間は通らなかった道へ逸れました。
その道がホテルへの近道だったからです。
疎らに人が歩く街路を、折原さんと途中まで進んだ加東さんは、ふと、気になる物を見つけました。
「なぁ、あれって何だろ?」
「ん?」
加東さんの言葉に、折原さんも彼が指差す方を見ました。
そこは、薄暗い裏路地への入口で、そこの壁に、まるで人目を避ける様な感じで、『縫人形⇒』と書かれた看板が掲げられていました。
「何だありゃ?」
「さあ・・・・・・何て読むんだろ?」
しばらく首を傾げていた二人でしたが、ほんの少しばかり興味をそそられた事もあり、まぁ行ってみれば解るだろうと、その裏路地に入っていきました。
危なくなったら、すぐに逃げれば良い。
そんな不用心な気持ちで。
市場の裏路地を抜けると、木箱が並ぶ通りに出ました。
その道には人っ子一人おらず、店と思われる建物はみなシャッターが閉じています。
戻ろうかと逡巡した二人でしたが、その矢先に、加東さんがある方向を指差しました。
「おい、あそこ開いてるぜ」
加東さんが指差す方向には、一軒だけ開店している店がありました。
チカチカと緑のライトが照らす入口には、さっき見たのと同じ様な『縫人形』と書かれた看板があります。
「バーかなぁ?」
「入ってみようぜ」
怪しげな所でしたが、二人は好奇心で店に近づきました。
その瞬間、ガタイの大きい男二人が、加東さん達の前後に立ち塞がり、彼らの進路と退路を封じました。
ヤバい、と思った加東さん達。
危険の可能性を考えずここに来た事を後悔しましたが、もう後の祭です。
二人が何も言えないまま、必死にどうすればこの窮地を脱する事が出来るかと考えを巡らそうとした、その時でした。
「Japanese?」
背後に立つ男が、そう聞いてきました。
いきなりの質問に少し面食らいましたが、「い、Yes」
なんとか、声を震わせながらもそう答えました。
すると男達は、突然笑みを浮かべたかと思うと、「OK」と答えながら加東さん達を中に案内しました。
(助かった・・・・・・)
そう安堵した二人が店の扉をくぐると、その先には旅行客らしき外国人の団体等がいました。
店の中は思ってたより広く、動物のショーを見る舞台の様になっています。
前部から中程までの席は他の客で埋まっていたので、二人は一番後ろの席に着きました。
(一体何が始まるんだ・・・・・・?)
不安な気持ちで催を待っていると、折原さんが耳打ちしてきました。
「おい・・・・・・もしかして、あれ見せられんじゃねぇか?」
「・・・・・・何を?」
「・・・・・・だるま」
聞き返した加東さんに、折原さんは予想通りの回答を口にしました。
加東さんと同じ様に、不安と緊張で青ざめた顔で。
「知るかよ!・・・・・・取り敢えず、さっさと見て帰ろう」
加東さんがそう言いながら舞台に向き直った時、一筋のスポットライトが舞台中央を照らしました。
催が始まったようです。
固唾を飲みながら舞台の向こうを見つめていると、その闇の中から、一人の男が歩いてきました。
男は全裸でした。
下着も何も身に付けていない真っ裸。
股間でだらしなく垂れ下がる恥部を隠す事もしないまま、男は堂々と明かりの場所まで歩いてきました。
(なんだ・・・・・・)
先程の不安は、ただの杞憂だったんだ。
現れた男を見て、加東さんは苦笑しました。
「なんだ、ただの変態ショーじゃん」
折原さんも、そう笑って呟きながら、舞台にいる男を見ます。
女が出てくりゃ良かったのになどと不満を抱くくらい、気持ちに余裕が出来ていました。
(本当に、どんなエグいのを見せられるかと思ったら・・・・・・ん?)
男の顔を見た加東さんは、ふとある事に気付きました。
スポットライトの下まで来て一礼し、顔を上げて客席全体を見回す仕草をする。
その間、何故か男はずっと目を閉じていました。
(なんで目を開けないんだ?)
眉をひそめながら男の顔を凝視していると、男は加東さん達がいる方向に顔を向けてきました。
その瞬間、加東さんは戦慄に凍りつきました。
男は目を瞑っていたのではなかったのです。
縫合で瞼を塞がれていたのです。
よく見ると、縫われているのは瞼だけではありません。
唇。
耳。
鼻の穴。
尿道口。
指と指の間など、身体中の穴と隙間を全て塞がれていたのです。
他の観客達は、全身縫合だらけの男に歓声を贈りました。
折原さんも、「自慰でも始めんのかな?」などと呑気な事を言いながら笑っています。
視力がそこまで良くなかったので、まだ舞台上の男の異常に気付いていないみたいです。
異様な状況の中で、加東さんだけが声も出せないまま男を見つめていると、突然、男が震え出しました。
最初は聞き取れませんでしたが、縫われた唇から呻き声を漏らしているのが幽かに聞こえてきます。
その内、目許が赤くなったかと思うと、そこから血の涙が、喉元まで流れていきました。
男に起きた異変で、ようやく異常に気づいた折原さんが、隣席で短く悲鳴を上げるのが聞こえます。
そして次の瞬間、「んんんんんんんんんッ!!!」
と悲痛な叫びを上げながら、男は血まみれの瞼を半眼まで開きました。
縫い糸で瞼の肉が引きちぎれ、瞳孔が見えないぐらい、夥しい血が顔を濡らします。
やがて、完全に目を見開いた男が、目の縁からだらだら血を流しながら一礼すると、観客から盛大な拍手が男に贈られました。
加東さん達は立ち上がる事も出来ず、呆然と舞台を見つめるだけでした。
拍手が止むと、男は次に、唇を開き出しました。
中心から開き出すと同時に糸が弾き切れました。
「んぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!」
叫びながらも男は、縫われた唇を開ききる事をやり遂げました。
縫合の箇所は血の色の凸凹だらけで、糸には引きちぎれた肉片がぶら下がっています。
さらに観客は盛り上がり、男はそれに応える様に、今度は指に取りかかりました。
耳や鼻の穴は、指を使わなければ無理だからでしょう。
その後も、苦痛の叫びを上げ続けながら、縫われた箇所を開いていく男。
最後は縫われた尿道口を、指でこじ開けました。
獣の断末魔を思わせる絶叫が響き渡ります。
直視出来ずに目を瞑った加東さん達は、込み上げてくる吐き気を堪えながら早く終われと願っていました。
やがて、男性器の先端が滅茶苦茶の無惨な状態になった所で、男は最初と同じ様に直立しました。
それから、観客に一礼した男は、会場の観客達のスタンディングオベーションに背を向け、舞台裏へ消えていきました。
男が消えた後も、拍手はしばらく続きましたが、すぐに止みました。
舞台裏から、今度は全裸の女性が現れたからです。
さっきの男の様に全身の穴や隙間を縫われた姿で。
明かりの下に来た女性はその場で座り込み、膣を見せつけるような体勢になりました。
肛門と膣も両方縫合されています。
耐えきれなくなった加東さん達は、駆け足でその店から立ち去りました。
裏路地まで来た時、背後からまたあのくぐもった悲鳴が聞こえてきた気がしました。
翌日。
現地のガイドさんに昨夜見たショーの話をすると、「ああ、ぬいぐるみのショーだね」
と言われました。
「ぬいぐるみ?」
「あれは、ぬいぐるみと言って、人間=人形。縫われた人形でぬいぐるみって読むんだよ」
昨日に二人が入った店は見世物小屋だったらしく、外国人しか入れないらしいです。
あくまでも噂ですが、実はあそこで見世物にされているのは中国の農村部で拐ってきた人間で、国内の人間には見られたら逮捕されるからだそうです。
以上が、縫人形というショーの話です。
この噂を聞いた後、加東さんと折原さんは運が良かったなと思いました。
もし外国人を見世物にする店だったら、加東さん達も縫人形にされていたかもしれませんから。