絶対にばあちゃんが教えてくれなかった怖い話。
俺は怖い話が好きでよく「ばあちゃん怖い話して」って子供の頃しょっちゅう言ってた。
ばあちゃんはまた話し上手でたくさん怖い話をしてくれた。
ある時俺が「ばあちゃんが知ってる中で一番怖い話を教えて」って言ったら「それはだめだ」って言われた。
俺は「怖がらせようとしてるんだな?」、と思ってもっとねだったら「話したくない事だってあるんだよ!」と怒鳴られた。
ばあちゃんが怒鳴ることなんてあんまりないから俺はちょっとびびっちゃって、そのままになってたんだ。
で、ついこの間ばあちゃんがふと「怖い話、してやろうか」ってぼそっと言うんだよ。
以下、ばあちゃんの話。
俺のばあちゃん、昔、某ホテルの支配人だったんだ。
あんまり名前は出したくないが、火災、で有名なとこな。
火災前夜に夜のシフトが入ってて、ばあちゃんと3人の男の人がフロントで話してたら「キィー」ってドアが開く音を聞いたんだって。
でもそれは音だけでドアも開いてなければ人もいない。
不思議に思い、3人が見回りに行って、ばあちゃん1人がフロントに残されたんだ。
ばあちゃんは怖がりな人間じゃないし、霊感とかそういうのも無いけど、勘が恐ろしく優れてる。
ばあちゃんはなんとなく違和感を感じていたそうだ。
しばらくフロントで仕事をしているとある事に気がついた。
そのホテルのロビーにはソファが置いてあるのだが、ばあちゃんを背にするようにソファに腰掛けている女性がいたらしい。
子供のように背の低い女性で、少し頭がちょこりと見えるぐらいの背だったらしい。
女性の髪形について書くのは難しいのだが、ロングヘアーでサイドに2つ持ち上げたみたいな感じ。
ただ髪の毛には白髪が混じっており、首元は皮がたるんでいるような感じで、子供の様な老人のような女性だったと言っていた。
ばあちゃんは、その女性が振り向くんじゃないか?と思って、怖くて声をかけられなかったって言うんだ。
黙ってどこを見ているのか。
そんな事を考えたら怖くて逃げ出したくなった。
しょうがなくばあちゃんは仕事を続けていた。
「足らないの、これじゃあ足らないの、足らないの」
女性はしわがれた声で、ぼそぼそとそんな事を呟きながら何か書いているように見えた。
するとそこに、フロントに居た3人が見回りから帰ってきた。
ばあちゃんは胸をなでおろし、あの奇妙な女性の事を告げようと「ねえ、あの人変じゃない?」といった瞬間、女性は本当に忽然と姿を消していた・・・。
ばあちゃんが「おかしいわね」と言いながらソファを見ると、そこには小さな紙切れが置いてあったそうだ。
紙切れに書いてあるのはいくつもの数字と、ぐるぐると赤鉛筆で囲まれた丸。
まったくでたらめな数字の羅列に思えた。
そしてその夜・・・。
ホテルで火災が発生した。
ばあちゃんはここをあんまり語ろうとしない。
宿泊者が火災に気付いた時は既に避難が困難を極める状態であったというから、相当火の回りが速かったんだろう。
ばあちゃんは正義感で消防団員に止められながらも宿泊客の救助をしようと、燃え盛る建物に無理やり入っていったらしい。
燃える建物、ガスや熱さで窓から飛び降りてしまう人達、木に刺さった死体・・・・。
それらを見てばあちゃんはこの事件について語りたくないのかな?と思っていた。
でもばあちゃんがこの事件について語ろうとしないのはそれだけじゃなかった。
ばあちゃんは燃え盛る建物を前に何も出来なかったことを悔やみ、火災事件死者のお葬式に参列した。
そんな時、ふと、はあちゃんはあの紙切れの事を思い出した。
「あれは、一体なんだったんろう・・・」
ばあちゃんは並んだ数字を囲む円を見てはっと気がついた。
それぞれ囲まれた数字が死者を出した部屋の番号だ・・・。
921,910,822,922,923,845
実は俺その紙切れ見せてもらったんだ。
ほんとうに普通の紙なんだが、ぞっとしたよ。
ばあちゃんはその紙を化粧台の下に隠してある。
俺もそれ以上は詮索しないが、ばあちゃんにはまだ隠している何かがあるんじゃないかと思うんだ。