死んでも嫌いな奴

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

俺のクラスに加瀬大舟というあだ名の奴がいた。
あの、偽者やらなにやらでもめてたタレントに似ていたわけではなく。

簡単に言うと、臭いのだ。
くせぇ体臭→かせたいしゅう。
かなり強引だったが、誰かが行ったこの命名が受け、定着した。

タチが悪いことに、そいつは体臭がきついのに社交的だった。
メシ食ってても、話してても、強引に話に割り込む。
で、嫌われる。
だが本人はそれをイジメと認識する。

そいつもそれなりに体臭をどうにかしようと頑張っていたようだが。
その際読んだ本や医者のカウンセリングで妙な考えを吹き込まれたらしい。

曰く・・・。
体臭とは存在の証であり個性、それを極端に気にする日本社会こそ異常なのだそうだ。
積極的に色々な人と触れようとしたのは受け入れてくれる存在を求めてのことらしい。

臭いの我慢して言い分を聞いてやった挙句に出てきたのはこの理屈。
受け入れてくれない人達こそ問題という責任転嫁。
しまいには日本人は異質な存在を受け入れようとしないとか言い出した。

蹴りたいの我慢して、クラスメイトとして苦言を呈してやる。

そうやって一生、周りが悪いと言い張って生きていくのか?

そんなんで社会に出てやっていけるのか?
大人になっても体臭がそのままだったら?
仕事してて客からクレーム来たらどうする?
それでクビになったら会社や客を訴えるのか?

ファミレスでバイトしてて清潔さについてきつく教育されていた俺には、こいつの理屈はマジでムカついた。
こいつは異質なんじゃない。
周囲と調和がとれないから排除されるのだ。

呆然としてたそいつは、やがてアンモニア水にフェノールフタレイン溶液を垂らしたように真っ赤になり憤怒の形相を浮かべる。
そして汗ばみ、更なる異臭を漂わせ始めた。
臭いがどうにもならないなら、そういうのを差っぴいてでも職場に必要とされるようなエリートになるんだな。
そう言ったら豚の悲鳴のような聞き取り不能の罵声を残し帰った。

それから学校にこなくなり、数日後、そいつは住んでいた団地から飛び降りた。
さすがに責任を感じていたが、葬式でそいつの親に掴みかかられ日記を見せられたとき、罪悪感は吹っ飛んだ。
奴は、俺が呈した苦言もイジメとしか受け止めていなかった。

むしろ、ヘタに言い分を聞いてやった分期待していたのか、苦言を呈した俺への怨念は強かった。
日記には、無理難題を突きつけられ、きついことを言われ将来に希望が持てなくなった、と書かれてた。

どうしようもない逆恨みぶりである。

もし、今のようにネットがある時代だったら個人情報と共にあることないこと晒され、洒落にならない事態になっていたかもしれない。
さすがに相手はもう仏さんなので「そんなんだからイジメられるんだ」という台詞は飲み込んだが、呆れて物も言えなかった。
幸い、俺は毅然とした態度で話していたことをみんな見ていてくれてたため、みんな俺のフォローにまわってくれた。

俺が次のイジメのターゲットとなることもなかった。
だが、奴の逆恨みぶりは相当なものだった。

葬式から帰ると、微かに臭ったのだ、奴の苦酸っぱい臭いが。

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