巻機山(マキハタヤマ)のドッペルゲンガー。
高校時代に経験した話です。
ある心霊HPに「音大くん」の名前で投稿したものに手を加えて再発表致します。
僕は山岳関係の部活動をやっていて、3年の夏休みに受験勉強の息抜きをしようと、後輩達の企画した山行に参加しました。
目的地は巻機山、群馬県と新潟県の堺にある標高1900m程度の山だったと記憶しています。
8月のある朝上野を出発して、上越線の六日町駅へ行き、そこから登山口まではタクシーという行程だったと思います。
山登りを少しでも経験された方は分かると思いますが、登山口には「訊ね人」の貼り紙が結構あるものです。
『×月●日何時頃山に入る、2日後下山予定だが連絡なし。1人用カマボコ型テント青色その他携行品XXXX等』
・・・なんてポスターが写真付で貼ってある。
それを見ただけでけっこうビクビクしながら、山を歩くことになります。
そして山の中で1人用のテントを見る度、1年生が念のため中を見に行く事になるのです。
実際には遭難者に遭遇したことはありませんが、張ってから随分時間の経ったテントも多数あり、荷物が散乱していたりして、死体なき遭難事件てなことになりかねないテントもないわけではありません。
幸い事件になりそうなこともなく、順調に行程をこなし、頂上を踏破した後、少し下がった場所にある「巻機聖地」という場所で夕食を済ませ、4つのテントに別れて寝る準備を終わったのが大体18時頃だったと思います。
真夏といっても高地のため、夜中の気温は0度以下に下がることもあり、上級生の特権として4人用のテントの一番奥で早々と眠りに就きました。
しばらくして、深夜0時頃テントの周りを歩くような音で起きてしまいました。
テントの張られている場所は、直径20cmほどの石を敷き詰めたような場所で、その上を登山靴で歩く音と同じような音がします。
遂に来たか?それとも悪戯か?
テントの上に張る雨避けのフライシートの下を風が通る音だと思うようにして、30分ほど我慢しましたが、原因がはっきりしないため眠りに就けず、出入口の一番近くに寝ている山中(仮名・1年生)に外を見るように頼むと、「どうせ他のテントの連中がいたずらしているんだと思うんだけど」と言いながら、渋々外に出て行きました。
1~2分して戻ってきた山中は「誰もいませんよ」と言い、さっさと自分の寝袋に入ってしまいました。
しかし、その後も周りを歩くような音は止まず、10分ほどの我慢の後、再び山中に「外を見てくれよ」と頼みました。
もう寝てしまったのか、寝たふりをしていたのか彼は返事をしません。
業を煮やした私が、「早く見てこいよ!」と命令口調で怒鳴ると、彼は「嫌ですよ!怖いっすよ!」と私以上の大声で返事をしました。
その声に只ならぬものを感じた私達は、それ以上強いることはせず、外気温以上(以下だな)の肌寒さを感じながらいつのまにか眠ってしまいました。
翌日は何事もなく下山し、来たときと逆の道順をたどって、それぞれが家路につきました。
1週間くらいしたある朝、山中がバイクの事故で死んだという連絡があり、あわてて仲間と共に通夜にかけつけました。
その帰り道、あの晩同じテントに寝た1年生が「先輩、ちょっと」と言って耳打ちした言葉に私は凍りつきました。
「山中はあの晩、テントの外を歩き回る自分自身を見たらしいんです」
・・・・山中の死んだ今、事の真偽は分かりません。