青色の屋根の町(前編)

カテゴリー「怨念・呪い」

※このお話には後編【青色の屋根の町(後編)】があります。

生まれは都市圏だけど、まだ緑が多かった頃なので遊び場には事欠かなかった。
家の近くに大きな空き地があって、毎年盆踊りをそこでやっていたのを覚えてる。
その空き地が潰されて大きな工場が出来たときに、自分の遊び場所がなくなってすごく悲しい思いをした。

そんな頃の話。

小学校の頃はやんちゃだった。
いつも悪戯ばかりして怒られている様な、そんな俺と同じようにやんちゃなNとY。
3人で遊んでいれば何でも出来そうな気がしたもんだよ。

夏休みのある日、自転車で川を遡って行って水のきれいなところで川遊びをしようってことになったんだ。
朝から自分たちでおにぎり作って、水筒に麦茶詰めて、リュックを担いで、一生懸命自転車を漕いでさ。
そういったちょっとした冒険旅行みたいなことは誰でもするだろ?
俺たちもそう。

それで朝早くから3人集合して川を遡ったんだ。
もちろん川原を遡っていくのは無理だから川に沿った道を延々と。
時には迷いながら2時間ぐらい遡った山のふもとで、ちょっと休憩しようってなったんだ。
もちろんそこは知らない町でさ、電柱には五木町って書いてあった。
面白いのは同じ色の青い屋根、同じ大きさの家がいっぱい並んでたのをよく覚えてる。
おかしいな?とも思ったんだが、それでも3人いれば楽しくって気にならなかったな。

自転車を川沿いの道の端に寄せて止めてから俺たちは川原に降りた。
天気は少し曇ってたけど蒸し暑いうえに自転車漕いでたせいもあって汗でベタベタ。
一刻も早く川の中で体を冷やしたいって思って川の方へ向かったんだけど、そこにはその町の住民らしき人が20人くらい、大人も子供も集まってなんかやってるんだ。
一言も話をせずに黙々と作業をしてる感じ。

大人も子供も。
老若男女を問わず。
土を掘ってるように見えて、何となく異様な光景に思わず俺たちの足は止まってしまった。

そして示し合わせたかのように一斉にこっちに向けられる数十の瞳。
今でもハッキリ覚えてる。
その瞳にはこう、なんて言ったらいいのかな?生気的な物が無くって虚ろな感じだった。

そう思ったか思ってないかのところで、その集団の中から小さな女の子の声で「・・・のおにいさんが来たね」って聞こえた。
その瞬間、ホントに瞬く間に今まで生気が無かったのにすごく優しい顔になって話しかけてきたんだ。

「どっから来たんだ?」とか「3人だけで来たのか?そりゃすごい!」とか。
オレとNはそのギャップが怖くなってあまりしゃべる事が出来なかったんだけど、人見知りをしないYはいつの間にか溶け込んで笑いながら話しをしてる。

周りの住人もニコニコしてるし俺たちに「疲れただろ?」とか言いながら、紙コップに入れたお茶とかお菓子とか出してくれる。
最初は警戒していた俺もNも段々慣れて来てお茶やお菓子をもらっていろんな話をした。
今日はこの町でお祭りがあるからよかったら参加していきなさいとか言われて喜んでたっけな。

その後、町の子供たちと川遊びをして遊んだ。
魚を捕まえたり水風船もって追いかけっこしたり。
この町のみんな人懐っこくてトイレに行くにも必ず誰かがついてくる。
だから一人ぼっちになる事が無くて楽しく遊べたんだ。

夕方になったのでそろそろ帰らないといけないと、3人で相談してたら住人のおじさんが、「今日はお祭りがあるから遊んでいきなさい。自転車と君たちは車で送ってあげるから」と言われて3人でどうしよう?と悩んだ挙句その提案を受ける事にした。

遊びの途中で帰るなんてその頃考えられなかったし、いつも遅くなって親に怒られていて、慣れていたってのもある。
それを伝えると目をまん丸にして「そうかそうか」って喜んでくれた上に、「他のみんな(この町の子供)は法被に着替えてるから君たちも着替えるといい」と赤い法被(はっぴ)を3つ手渡された。

Tシャツの上から法被を羽織るとおじさんは「よく似合ってるよ。やっぱ主役はこうでなきゃ」って褒めてくれたんだ。
その後おじさんに連れられて、町の人でごった返した祭りの会場に連れて行ってもらったんだ。

会場は所狭しと出店が並んでいて、普通であれば真ん中には櫓が組まれているはずなのにそれは無く、ひな壇みたいなものがあってその上で太鼓と笛が小気味良い音を奏でてる。
そのひな壇の近くにお神輿が大小二つあって大きいほうは15人くらいで持つ奴で、小さいほうはその気になれば一人でも担げるようなミニ神輿だった。

なんだあれは?と思っていると法被を来た子供たちが、どこからともなくわらわらと俺たちの周りによってきた。
総勢で20人くらいいたのかな?

高学年の子も低学年の子もいてみんなニコニコしてるんだけど、みんな法被の色は紺色だった。
「俺達と法被の色が違うね?」というと高学年ぽい子に「おにいさんだからだよ!」と言われた。
俺より高学年ポイけど違うのかな?って思ったんだけど、まぁいいやって思って、子供みんなで遊んでた。

出店に行くとお金はいらんからって何でもくれる気前のよさ。
俺たちも他の子供もわたあめ食べたり、射的したりで存分に遊ばしてもらった。

大人はというと遠巻きに子供たちを眺めながら酒を飲んでいる。

しばらく遊んで、頃合いとみたのかさっきのおじさんが中央のひな壇の上で大きな声でしゃべり始めた。
一斉に止む笛の音や太鼓の音。
「それではおにいさん祭りを開催します!!」という声と共に歓喜の声。

俺たちも訳も判らずはしゃいでる。

子供たちは全員がそのおじさんに連れられてさっきの神輿があったところにいた。
町の子供たちはあらかじめ場所が決められていたかのように大きな神輿の回りに順序良く整列した。
この神輿はスゴくキラキラしていて装飾がすごい。
もちろん子供が持てる大きさなので、テレビなんかで大人が担ぐ神輿に比べればたいしたことはないが、一見して豪華だということは子供ながらにも判った。

俺たち三人はどうすればいいのか判らないのでマゴマゴしていると、さっきのおじさんがやってきて「ほら、君たち三人はこの小さい方を担いでね」と大きい神輿のすぐ近くにある小さい神輿を指差した。

近寄って見てみると、こまごまとした装飾に屋根の上には、炎のような飾りがついていて昔はきれいだったのだろうが、今はだいぶ汚れている。
泥汚れ?らしきものもあり”おじさん”を振り返ると「この前の祭りで落としちゃって少し汚れてるけど、大丈夫だよ」と笑顔で言われ「なぁんだ」と安心したのを覚えてる。

配置は俺が進行方向で言えば前で担ぐ事になり、Yが左でNが右だった。

すると”おじさん”がまた大きな声で「それでは神輿を担いでくださ~い」と大きな声で指示を出すと、大きな神輿はエイッという掛け声と共に子供たちの肩に担がれた。
それを見た俺たちも掛け声を入れつつ小さな神輿を担ぐ。

いや、担ごうとした。

その瞬間、見た目と違う重さにビックリして神輿を落としそうになった。

あわてて駆け寄る”おじさん”が支えてくれて落とさずに済んだが尋常でない重さだ。
”おじさん”の方をチラッとみると「ホラホラ頑張って。周りを5周くらいするだけだからね」と、やさしく言われたので頑張ってみる事にした。

両肩が神輿の重さで軋むが歩けないほどじゃない。
ソロソロとゆっくりではあるが3人で時計回りに歩き出した。
それと同時に笛と太鼓の楽しそうな音色が始まる。
いつの間にか大人たちが近寄ってきていて「ほらほら、頑張って~!」とか応援してくれる。

最初は重さのあまりおっかなびっくりだったが少し慣れてきたのか、歩く速度より少し遅いくらいのスピードになっていた。
このときで半周くらいだったかな。

もう少しで1周というところで突然後ろから「ドン」っと押される感じがあった。
よたよたと千鳥足になったが何とか堪えることができた。

何があったのか?と後ろを振り返ると、真後ろに大きな神輿を担いだ子供たちがニヤニヤしながら立っていた。
どうも大きな神輿が俺たちの神輿に追突したみたいだった。

一番先頭の子供が「ごめんね~」と謝ってきたので「大丈夫」とだけ返してまた歩き始めた。

ようやく1周。
これをあと4週か、と思い少し息を入れたところでまたもや「ドン」ときた。
同じようによろめく俺達と神輿。
後ろを向くとやっぱり大きな神輿の子供たちがニヤニヤしている。

一番先頭の子供が「ごめんね~」とまた謝ってきた。
あまり口をきく余裕がないほど重いので軽く頷きまた歩き始める。
いつの間にか大人たちは近すぎるほど傍によってきており、手を伸ばせば触れられるほどの距離だ。

みんな口々に「頑張れ」とか「もう少し」とか応援しているが、その応援を支えに歩こうと数歩行った所で、今までにはないくらい激しい「ドン」がきた!

※青色の屋根の町(後編)へ続く

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