他に部屋ってないんですよね?

カテゴリー「心霊・幽霊」

去年の話。

丁度今の季節にウチは親友と二人でとあるバンドの夏ライブツアー全ヵ所制覇にやっきになってたんよ。
二人して半年かけて貯めた金をこのツアーに全てつぎ込み、燃える夏を過ごしてた。
で、実はこの親友がかなり”見える人”で、ウチもだいぶお世話になったりしてたんだけども、その日、地方のライブでなんとか見つけた旅館に泊まれることになって安心してたのね。

ライブが終わってその旅館に行って、受付済ませて、中居さんに案内してもらった部屋に入った瞬間、親友が「げ」って言ったんよ。
もちろん中居さんにも聞こえてて、ウチが「どうしたん?」て言う前に中居さんが「どうかなさましたか?」って尋ねたのね。

したら親友が「あの・・・まぁ・・・なんて言うか、他に部屋ってないんですよね?」って遠慮がちに言い出してそれ聞いた時、ウチは悟ってしまって。

当然、夏の娯楽シーズンに宿が取れただけでもマシな状況で中居さんは「申し訳ありません。本日は満室になっております」って言うわな。
「あぁ・・・じゃあ・・・うん。・・・いいです」ってあきらめて親友が言ったんだけど、どっちかって言うならウチの方が凹んでて。

仕方ないから荷物置いて、買ってきたペットボトルのお茶飲みながら、今日のライブについて話して盛り上がってたんよ。

ほどなくして、部屋に備え付けのシャワーを交替で浴びて、仲居さんが用意した布団に入っても、しばらく話を続けてたんね。
けど、さすがにその日で5公演目だったし、運が悪かった日はネカフェに泊まったりもあったから、割と疲れてて1時前には眠りについてたんかな?

ウチは完全なる爆睡状態だったんだけど、いきなり「てめぇウゼェんだよ!!ボケがぁ!!!!」って言う、親友の叫びげで目が覚めたん。

びっくりして、飛び起きたら親友は普通に寝てて、「何?」って話しかけたんだけど「めんどくせぇ。朝起きたら言う」って言われて、しぶしぶ寝た。

朝になって先に起きたウチは、まだ出るまで時間があったから、今後のツアーの日程と泊まるところの検索を持参のパソコンでしてたんよ。

親友は寝起き最悪だから、自分から起きるまでほっといた。
1時間半くらい経って親友が起きたんで、昨日(夜中)の件について聞いてみた。
したらまず、中居さんに案内されて部屋に入った時に襖の前に女が立ってたと。
結局代わる部屋もないし、たぶん大丈夫だろうとその部屋で過ごしてたら、女はひたすらウチに抱きついてきていたらしい。

ウチが極度の怖がりなのを知っていたので、言ったらまずいと思いだまってたと。
それから、寝るときになって女はウチでは気づいてもらえないと諦めたのか、今度は親友の布団にもぐり込んできたらしい。

しばらくは放置してた親友も、腰やら足やらサワサワされて寝付けずブチ切れて、その女の顔面に蹴りを入れたのが夜中、叫んだ瞬間のこと。
その後はその女もおとなしく布団の前に正座してたらしく。

旅館を出るとき、受付で親友が女将さんを呼んでくれと何やら話していて、部屋であったことを要点だけ伝えてた。

その時、親友が「風呂場の排水溝に大量の髪の毛がうんぬん」て言ったのを聞いて、ウチはサーっと血の気が引いた。
風呂は親友が先だったので、その髪の毛はてっきり親友のだと思っていた。
だから手に取って「あいつ抜け毛激しくね?」と思いながら捨てた。

考えてみれば、親友の髪は今焦げ茶だから黒じゃない。
ウチも相当、抜けてるなと思った。

最終的に、女将さんから謝罪と宿泊費の2/3を返してもらえることになったのだけは、ちょっとラッキーだった。
長い上に怖くなくてごめん。

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