20年くらい前の恐怖体験ではないが、忘れられない不思議な体験。
週末の夜中に、なぜか静岡県の日本平へ行きたくなり一人車で行った。
まぁ昔よく走りに行ってた所なんで懐かしさが込み上げて来たのかな程度だったんです。
夜中の2時過ぎ頂上付近の広い駐車場で一人ポツンとジュースを飲んでいると、一台の車が来たんです。
広い駐車場なのにその車は、俺の車の横に止まり中から一人の女性が降りてきて自販機でジュースを買い俺の方に向かってきた。
暗い中でもちょっと可愛い子とわかり内心、「ラッキー!」と思った。
向こうから声をかけてきて、「何してるの?」とか「どこから来たの?」とか他愛のない会話をして徐々に盛り上がってきたので思い切って近くに夜景の綺麗な所があるから今から一緒に行かない?と誘い俺の車一台で行くことになった。
車で30分くらいで目的の夜景スポット(ヤンバラという所)に着き、夜景を見ながらどうやってホテルまで誘うか?など頭の中で妄想を膨らませているとその女性が、急に泣き出し、今夜、本当は自殺しに日本平に来たことを明かした・・・。
理由は色々ありそんなんが一気に重なって思いつめてた様子だった。
俺の欲望は一気に冷め慰めることだけに集中することにした。
「生きてりゃいい事あるよ」とか「そんな可愛いんだからもったいない」とか「自殺しても何の解決にもならない」等ありきたりの話をして思いとどまらせた。
つか、正直ちょっと怖かった
たまに合う目線が逝ってるというか・・・焦点が定まってないというか・・・妙に生気が感じられないというかなんというか・・・いつの間にか人間っぽくなくなっていた。
しばらくして女性は、少し落ち着いたのか「ありがとう頑張ってみる」と言い日本平に帰ることになった。
帰りの車の中、まだ鉛の様な空気が漂っていたが、強引に笑い話をしてその場を盛り上げ、彼女の車の所まで行き「もう死ぬとか考えるなよ」と言い最後に握手して別れた。
異常に彼女の手が冷たかったのを覚えている。
変な夜になっちまったと帰りのほとんど車が走っていないバイパスを飛ばして帰った。
1時間くらいかけて、家に着きポストを見ると黒い手紙が届いていた。
住所も何も書いてない真っ黒な手紙。
気持ち悪かったが手紙を開けると「今夜はありがとうとても綺麗な夜景が見れて楽しかったわ」と、それだけが書いてあった。
まさか、さっきの彼女か?
そう思ったが住所など教えていないし、後をつけられた覚えもない。
速攻で外に出て周りを確認したがそれらしい車も止まっていない。
急に怖くなり手紙をゴミ箱に捨て酒を飲んで寝た。
次の日、昼くらいに起きて昨夜の事を思い出しゴミ箱に捨てた黒い手紙を再度確認する。
やっぱりどう考えてもおかしい・・・。
昨夜、日本平で彼女と別れてから結構なスピードで帰ってきた。
コンビニなんかも寄っていない。
どこら辺に住んでいる位は話したが住所など教えていない。
やはり怖くなって忘れる為にその手紙をゴミ箱に捨て朝食を買いに出かけて家に戻ると・・・またポストに黒い手紙が届いていた。
もう震えが止まらなかった・・・。
ポストから手紙を取り出す手がガクガク震えて止まらない。
手紙を開けるべきかそのまま捨てるべきか・・・。
悩んだ挙句開けることにした・・・。
「手紙捨てないで」
それだけ書いてあった。
もう恐怖の絶頂で目の前が暗くなった・・・。
もうなんなんだ?
これはなんなの?
どうなってるんだ?
訳がわからなくなり友達を呼んで一部始終を話してその手紙を見せた。
友達も訳がわからずとりあえず捨てないで持ってろよと言うだけ。
どうしていいかわからないままとにかく早く忘れる為にも、たくさんある電気とかガスとか請求書の中に紛れ込ませ箱に入れ、その箱をダンボールの中に入れ押入れの奥へしまった。
そんなこんなで数年が経ち・・・そんなこともすっかり忘れていました。
引越しの日が来るまでは・・・。
押入れの中にあるそのダンボールの中の箱を見つけてあの当時の事を思い出すが、さすがに箱の中までは確認しなかった。
当時の恐怖は薄れていたが、捨てずに新しい住居に持ってきて、また押入れの奥にしまいある意味封印した。
さらに数年が経ち今に至る。
しかしなぜ今になってこの話を思い出したか?
俺が経営する会社の役員が裏切り膨大な借金を残して姿を消した。
信用していた役員(あの当時、手紙の話をした友達)が勝手に俺のハンコを使い、いつの間にか借金の保証人にされていた。
毎日のように会社に取り立てにくる金融業者・・・。
ライバル会社に渡った顧客リスト・・・。
オマケに顧客にまでウチの会社は借金だらけという話まで流されていた・・・。
当然、売り上げはガタ落ち社員も全員辞めた。
今まで頑張ってきた10数年の苦労が水の泡となった。
絶対的な信用を持っていた人に裏切られ会社もなくし、膨大な借金だけが残り何もかもが嫌になり自殺まで考えたある日、家のポストに住所も何も書いていない黒い手紙が入っていた。
当時の記憶が蘇るが、恐怖もくそもない躊躇なくその手紙を開けた。
「生きていれば、いい事あるわよ。死ぬとか考えちゃダメだよ」
そう書いてあった。
恐怖とかそんな感情はまったくなく涙があふれ出てきた。
当時彼女に言った俺の言葉だ。
俺は押入れから例の箱を取り出し当時の黒い手紙を探し出し、3通になった黒い手紙を並べて生きてまた頑張ることを誓った。
今はまだ貧乏生活が続いているが、なんとか一人で生活できる程度にまでになった
あの時の彼女は、いったい何者だったのか今でもわからないが、感謝している。
もちろん今でも、この黒い手紙は大事にしまってある。