小学生の頃、お父さんが勤める中学校へ遊びに行った時の話。
休日の職員室には先生がちらほら見え、部活動の生徒が校庭から遊びに来た。
先生達が学校の話をしてくれたり、生徒が可愛がってくれるので、僕は父の職場に連れて行ってもらうのが好きだった。
その日は、パソコンルームに連れて行かれた。
まだ家にパソコンが無かった時代で、もの珍しかったが、父が部屋に入れてくれたのだ。
父:「部活が終わるまで、ゲームして遊んでなさい。ここ押すとペイントだから。」
トランプに夢中になっていると、部屋のドアがノックされた。
一瞬どうしていいものかと戸惑っていると、何も起こらない。
まず、父ではないのはわかった。
じゃあ他の先生?
生徒?
考えてもどうしようもないのでゲーム続行。
しばらくすると、またノックが聞こえた。
じっとドアの曇りガラスを見つめていると、背の高さから中学生だと思った。
しかし、一向に入ってこない。
僕は怖くなってきた。
教室を出るのも怖いが、ここで一人も嫌だ。
次にノックが来るのを戦々恐々と待つしかなかった。
次の瞬間、一気にドアが開いた。
僕:「お・・・おとーさーん!」
半泣きでタックルしてくる息子に警戒しながら、パソコンの電源を消す父。
足にへばりつきながら職員玄関を向かう途中、さっきの出来事を話した。
父:「悪戯かなあ、生徒の。もう部活終わる時間過ぎてるのに。」
言いしれない恐怖を伝えようとするが、非科学的な存在とは無縁に生きてきた体育会系に、繊細な子供の気持ちは理解できないらしい。
父:「うちの部活は時間通りに終えてるのによー、野球部とか守らないんだよ。やんなっちゃうぜマッタク。」
職員玄関前に来て、そんなことをぶつぶつ呟く父の横で、僕は固まっていた。
僕:「お父さん、あれ・・・」
震える指でさした方向には、電気のついてないトイレがあった。
異質な雰囲気を帯びている黒い小さな影が、こちらを中からじっと凝視している。
すると父は大きな声でソレに呼びかけた。
父:「早く帰れよ!お前がいると他の先生カギかけられねーだろ!」
鈍感とか体育会系とかはもう関係ない。
シックスセンス以前の段階で、他の感覚を疑いたくなってきた。
それから父は声を和らげ、こう付け加えた。
父:「家の人が心配しているよ。早く帰ってあげなさい」
見えない、分からない人間がいるから、ああいう場所には父が必要なのではないかと最近思う。