今年は、去年死んだ爺さんの初盆だった。
孫の中でも一番の年上の俺は、今回のお盆でも色々手紙のようなものを読まされたり、お寺に灯篭を取りに行って流したりと中々忙しく、長い長い坂を上った先にある墓場に行って、掃除をしてきたときなんかは、そのまま家に帰ってきて、しばらく動けないほど疲れてしまうのだった。
16日、お盆最後の日も前日と変わりのない熱さ。
田舎なので、セミの鳴き声が家の中から聞こえてきたりした。
俺はその猛暑の中、最後の墓参りを済ませ汗だくで帰ってくると、仏壇があるお上に上がり、縁側の戸を全部開け放って倒れるように寝た。
疲れていた俺は、爺さんの仏壇に脚を向けて寝てしまっていたのだが、そんな事には気付きもしないで、大の字に体を投げ出して寝ていた。
死んだ爺さんは、昔からじじいとは思えないくらい子供っぽくて、よく俺にいたずらを仕掛けてきて喧嘩になった。
昼寝をしている俺の額に氷をおいてみたり、ランドセルの中に大根なんか入れたりして、怒る俺をからかっていた。
また、根がそう言う性格なのか、爺さんは子供のように俺と遊んでくれた。
一緒に玉虫を取りに行った時、婆さんの鏡台に土で作ったうんこを仕掛け、爺さんは友達みたいに俺と一緒にはしゃぎ、怒られ、二人でしょぼくれたりもした。
でも、そんなバカな事をしてくれる爺さんが、俺は密かな自慢だった。
一緒に遊んでくれる友達みたいな爺さんが俺は好きだった。
そんな爺さんが死んで一年が経った。
葬式の時などは泣いたが、もう思い出す事はあっても、悲しいと思う事は減ってきた。
爺さんも、俺が悲しむよりはそっちの方がいいんじゃないかと、俺は勝手に思っていた。
ふと気がつくと、朦朧とした意識の中、なにかが聞こえる気がした。
これは、頭の上の方にある縁側の廊下の、ビニールで出来た畳が擦れる音だ。
爺さんが帰ってきたのかな・・・と思う間もなく、頬に氷水を浴びせられたかのような、ヒンヤリでは済まされないような冷たい感触。
俺は年柄も無く「わああ!」と叫びながら飛び起きた。
下を向いて頬があったところを見ると、キンキンに冷えたオロナミンCが汗をかいて転がっていた。
俺:「ばあさーん、ばあさん!起こすなら声くらいかけろよー」
廊下に向かって声をかけたが返事が無い。
お上の入り口に立ってもう一度呼んでみたが、俺の声がわんわんと変な反響を反してくるだけで、それ以外は何も聞こえない。
玄関に行ってみると、俺と死んだ爺さんの靴がそのままになってる以外は、靴は出されていなかった。
そう言えば婆さんは、「親戚の家に行く」といってた気がする。
狐につままれた気分になりながらもお上に戻ると、転がってたはずのオロナミンCがちゃんと立っていた。
仏壇に近付いて、小さな爺さんの写真に「爺さんなのか?」と聞いてみた。
当然爺さんはなにも答えなかったが、触れた写真たての下は、キンキンに冷えた水滴で濡れていた。
俺:「何だよ、死んでからもいたずらかよ」
噴出しながら見上げた遺影は、相変わらず鼻毛が出ていたが、なんだか前より少しだけ、俺には笑った顔が楽しそうに見えた。
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