もうかなり昔のことですが、私の実家の近所に同い年の幼馴染がおりました。
私らが高一くらいのある日、幼馴染の一家は急に亡くなった彼の祖父の葬式を母親の実家で済ませ、自宅へ戻るとその晩は家族皆早めに就寝したそうです。
幼馴染と彼の姉、そして両親の4人から成るその家族の寝室は2階建ての家の2階部分に集中していたのですが、彼らが床に就いてしばらく経った頃、家の外から何か不審な物音が聞こえてくる事に家族全員が気付いたそうです。
その音は最初1階のすぐ外から聞こえ、それから徐々に上へと移動して来ました。
その音は、家の外壁を「ぎしっ、がし」っとよじ登るような音だったといいます。
怯えた家族の皆は起き出して、両親の寝室へと集まりました。
「泥棒じゃないの?」
「110番に電話しようか?」
・・・などと、しばし声を顰め話し合っていたそうですが、そのうち彼らは外壁から伝わる物音がさらに尋常なものではないという事に気付かされます。
それまで下から上へと移動していたその音が、2階あたりに達したと思ったら、今度は時計回りに横移動を始めたというのです。
幼馴染の家の2階はベランダがあるわけでもなく、そもそも家の外周りには手がかり足がかりになるようなものはそう多くはありません。
にもかかわらず、「ぎしっ、がしっ」、という物音はみるみるうちに2階の外壁を移動して行き、いつの間にか家の周りをぐるりと一周してさらに2周目へと入っていきます。
幼馴染の話では、それこそ普通に歩いて行くようなスピードだったとの事でした。
幼馴染と彼の家族たちは、カーテンを開け外の状況を確かめる事など到底出来ず、もう恐怖のあまり成す術も無く身を寄せ合うばかりだったそうです。
その外壁を横移動する何かは、そのまま2階の周りを数周した後、不意に移動を止めたかのように一切物音を発てなくなりました。
物音が止んだ位置は、何故か窓も無くのっぺりとした壁になっているだけの場所だったそうです。
家族一同はしばらく息を呑んで外の物音に耳をそばだてていましたが、すぐ外にいるかもしれない何かは沈黙を守るばかり。
結局、「不審な物音がする」と110番通報して警官に来てもらい家の周りを見てもらったそうですが、辺りには何もおらず、また外壁も含め敷地内に侵入された形跡も発見出来なかったとの事でした。
警官が帰った後、家族皆放心状態でいるなか、幼馴染の母親がふと口にした「きっとあれは(亡くなったばかりの)おじいちゃんだったのよ」という言葉が、彼にはとても印象深かったといいます。