命日が送別会の日

カテゴリー「心霊・幽霊」

もう10年以上前、G県の大学に入学した俺は大学近隣の寮に入った。
狭いし小汚いし、何より規約?制約が多くてイヤだった。
男子寮で女子禁制、そりゃ下宿に一人暮らしなら女を連れ込みたい10代の若者にはキツイ。
しかし初めての一人暮らしの寂しさを埋めてくれたのは、女の肌だけでなく、寮の先輩達と同期の面々だった。

野郎だらけのユートピアはそれはそれで快適で、こっそり彼女を連れ込んだり、先輩とこっそり寮内で合コンしたり、すぐに寮を出ようと思いながらも2年間をそこで楽しく過ごしたんだが、大学二年の時、遊びまくって連れ込み部屋化してた俺は家賃が安くてキレイな1Kの物件を近くに見つけたので、三年への進級を機にそこへ引っ越すことにした。
そして春休み前に、寮で卒業生と俺の送別会を開いてくれることになった。

それは何かと寮のイベント毎に催される、廊下にお膳みたいなのを用意して、酒と寮母のおばちゃんの料理がズラリと並び、寮生みんなが廊下で膝を突き合わせて大騒ぎする宴会だった。
寮は横長の建物で、北側と南側に部屋が並び、中央に廊下がある建物だ。
当然玄関、風呂、トイレは共用。
狭く長い廊下に男が20人以上集まってワイワイやるからかなり賑やかで、食えや飲めやの大宴会になるのが通例だった。

卒業生と寮を出る俺は主役のため、とにかく集中的に飲まされた。
元々酒は強いし、ヤンチャ坊で強気な俺はガンガンに飲みまくって周りへも返杯で飲ませまくっていたが、新居への引越し準備の疲れもあってか、0時を越えた頃にさすがにへべれけになってしまった。

宴会会場は廊下なので、そのまま自室にフラフラしながら戻って、荷物が片付いて布団しかない一間の部屋で眠りについた。
酔いと疲れで熟睡していたが、ふと異音で目が覚めた。

時間は午前2時過ぎ頃。
部屋には流しの前に磨りガラスの小窓、ドアにも磨りガラスの小窓がついている。
どちらも廊下に面していて、暗い部屋の中だと、流しの小窓から照明で明るい廊下の様子が伺える。
廊下では、人が走るようにバタバタ足音を立てて行き来している。
そして時折、鍵がかかっている俺の部屋のドアを、誰かが開けようとノブをガチャガチャやっている。

部屋のドアの小窓から誰かがドア前に立っているのもわかる。
どうやらその足音とガチャガチャ音で目が覚めたようだ。

誰か酔っ払って俺の部屋を自分の部屋と間違えて入ろうとしてるのか?
廊下で運動会でもしてるのか?

うるせぇなぁ・・・と思って声を出そうとして、初めて異変に気付いた。

声が出ない。
これは・・・金縛か!

布団に仰向けになった状態で、俺の視線はドアと流しの小窓に張り付いている。
体は全く動かず、声も出ない。
よく怖い話とかで聞いたことがある、「コレが金縛りってやつか!」とドキドキした。

そして金縛りで動けない俺を知ってか知らずか、ドアノブガチャガチャ、廊下をドタバタ、時間が経つにつれてエスカレートしてくる。

どんどんうるさくなってきて、だんだん恐怖より怒りが込み上げてきたが、文句の一つも言いたいが声も出ない・・・諦めて目を閉じた。
するとそのまま眠ってしまったのか、気付いたら朝の7時過ぎだった。

昨日の騒音野郎はどこのどいつだ!?と、隣の部屋の先輩を起こして問いただしてみた。
しかし先輩曰く、昨夜は俺が部屋に退散したちょっと後にはお開きになっていたそうだ。
先輩が寝る前にトイレに行ったのが午前1時前頃、その時に廊下の照明も消して、廊下は常夜灯の薄明かりだけだったと。
当然、2時頃には全員が寝静まって寮は静けさに包まれていたらしい。
それでは、俺が目を覚ました時の音は・・・??

わからないまま、引越しを終えて寮母に挨拶に行った。
2年間のお礼といろいろ話をしていて、ふと送別会の夜の出来事を話した。
すると寮母が教えてくれた。

俺が入った部屋に以前住んでいた人も、大学二年の終わりで寮を出たこと。
可愛い彼女がいて、同棲するためにアパートを借りたこと。
そしてその春休み、彼女とドライブデートしてトンネルの中で事故を起こし、二人とも亡くなったこと。
その命日が送別会の日だったこと。(しかも事故を起こした時間が未明頃)
そして、その事故を起こしたというトンネル、なぜかピーンときた。

「それ、◯×トンネルですよね・・・?」と聞いてみたら、ビンゴ。

「何故知ってるの?」と寮母に聞かれたけど、引越しのちょっと前、友人達とツーリングに行って、そのトンネルを通ったことがあった。
そしてそのトンネルの中、めっちゃ寒かった。

まぁ春先のトンネルの中だし、寒いのも当たり前だわなーと思ってたけど、トンネル抜けた先のコンビニで一服休憩に寄った時に俺の後ろを走ってたヤツがこう言った。

トンネルの中で、俺の背中が真っ暗になったように見えた。
まるで、影が何かが覆いかぶさったように、と。

ああ、これは間違いない、その人は俺を呼びに来ていたのか。
しかし俺は眠気に負けて寝てしまったと。

とりあえずあれから特にお祓いとかもせず無事に生きているから、怖いお化けとかでなかったと思いたい。
そしてこれはガチの実話。
オカルトとかは信じなかったけど、実際目の当たりにしたらちょっとスゲーってなるよ、マジで。

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