自分が背負った借金で

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

もう何年前になるだろう、火曜サスペンス劇場。
あれは伊東四朗主演、伊東四朗かい!?って最初は思ったけど、「水色の迷宮」とかだった。
いつになくシンプルな題名に何か期待。

場面は暗い取り調べ室に座る、作業着姿の伊東四朗で始まった。

四朗の妻と子が車ごと崖から転落死した。
別の場所で彼の母親が川で水死体で発見され、足の不自由な母親は、水辺迄引き摺られた様な形跡が・・・。

殺人??

事件の真相を四朗が自供する独白形式で話は進む。
四朗は仕事一筋じゃないけど、人が良くていかにも騙されやすい男。
案の定騙されて、莫大な借金を抱える事となる。
働いても働いてもかさむ借金。

家も売ったか取られたかしたと思う、狭くて汚いアパートに移る一家。
それでも一生働いても到底返し切れない。
家族会議で出た結論は、一家心中だった。

しかしその時点で、皆は吹っ切れた様に明るくなった。
とにかく頑張ろうよってな感じでね。
家族の気持ちが一つになった、そんな気が四朗にはした。

それから四朗は今までと違って、一生懸命働く様になった。
家に帰れば、労をねぎらう家族達。
笑い声まで起こる一家団欒。
四朗はむしろ今の方が幸福にさえ思っていた。

でも。

ある日仕事を終えて、家に帰ってきた四朗。
家には母親しかいない。

四朗:「あれ?皆(妻と子)は?」

母親:「何言ってるんだい、今日だろ?」

四朗:「?」

母親:「もう行っちゃったよ・・・あたしも早く連れて行っておくれよ」

決行日は今日だった。

四朗はその時思い知った。
皆、その日までせめて明るく生きようとしてただけだった。
自分一人がいつの間にか、このまま何とか逆境を乗り越えられる様な気にスライドしてしまっていただけなんだと。

呆然自失の四朗は母親に促されるままに、川辺までおんぶして行く。
でも、それでも母親を川へ放り込むなんて四朗には出来なかった。

母親:「・・・分かった、あたしが自分で行くよ」

母親は自ら四朗の背中から降り、四つんばいで足を引き摺りながら・・・ずる、ずる、と進んでいく。

四朗は母親を見ていられなかった。
だが止める事も出来なかった。
そして残った自分は最後まで死ぬ事が出来なかった。

自分が背負った借金で、家族は巻き添えになっただけなのに、当の本人が現状を把握出来なかった男の一人語り。

誰も救われない、誰も幸せにならない、そんなお話でした。

舞台は、火曜サスペンスらしからぬ回想以外、ほぼ取調室から出ず。
終始虚ろな四朗の目が、有無を言わせぬ重苦しい異色作だった。

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