12年前、100円のアーケードゲームが主流の中で、10円でゲームができる駄菓子屋があった。
駄菓子屋の店主のおばあさんは、無口な人だった。
私は、おばあさんのことがあまり好きではなかったが、その駄菓子屋に毎日通った。
おばあさんは、いつも少し離れたテーブルでタバコを吹かしながら、ゲームをしている子供達を見ていた。
そのおばあさんが、駄菓子屋のすぐ近くで車に轢かれた。
即死だったと。
おばあさんは独り身だったので、葬式もなく、そして駄菓子屋はつぶされることになった。
それから数日ほど経って、小学校内では噂が流れた。
空き家の駄菓子屋で、おばあさんの幽霊が出るという。
様子が気になった私は、駄菓子屋の窓から中の様子をみてみることにした。
駄菓子屋の内部は、整理された様子はなく、ダンボールが散乱していた。
そんな中で、白い”もや”がおばあさんの椅子の上に浮かんでいた。
”もや”は私のほうを見ているように思えた。
あるとき、小学校の子が交通事故で死んだ。
その子も駄菓子屋の常連だった。
轢かれる前に、その子は駄菓子屋の中で肝試しをしていたらしい。
駄菓子屋では電気がいまだに生きていて、ゲームがまだ使えたそうだ。
肝試しは、一人ががアーケードゲームに10円を入れて、ゲームをするという内容だ。
その肝試しの一番手が轢かれた子で、仲間は外の窓から様子を見ていた。
轢かれた子が中に入って、ゲームを始めた。
このときは、なにも変わった様子はなかったようだ。
そしてゲームを終え、部屋から出ようとしたとき、椅子の上にもやが現れて、その子に重なったらしい。
それからおばあさんの行動をなぞる様に、ふらふらと道路に飛び出していったという。
いまだに、駄菓子屋は残っている。
私は今でもこの駄菓子屋の前を通る。
窓から中を覗こうとしても、ダンボールが窓の前に積まれていて、内部を見ることは出来ない。
だけれど、裏口の引き戸に手をかけると、簡単に開く。
中では、二つの”もや”が私を見ている。