妖怪「一口頂戴」

カテゴリー「心霊・幽霊」

知人から聞いた話。

海外の日系工場、周辺の食堂に女が出たらしい。
美人ではないが、若い女は現地人工員が食事をしていると卓に寄って「コレ、頂戴」と言って一口二口、食べ物や飲み物を飲んだ。
女は食べると違う卓に行ってしまうのと、体を触っても文句を言わなかったので工員達は喜んで食べさせた。

また、柄の悪い工員達の卓には行かなかったのでトラブルにもならなかった。
女が現れだして四五日目、タチの悪い工員が女の手を掴み「俺の卓で食べろ」と無理強いしたそうだ。
女は素早く工員の手を逃れると店の外に消えた。

次の日、その工員が工場で作業していると「コレ、頂戴」と聞こえ、振り向くと、あの女がいたと言う。

驚く工員、女は工員の右手を握ると機械の中に突っ込んだ。

以上、A氏が事故で右手を無くした工員から聞き取った結果だったらしい。

海外の工場とは言え、一応武装した警備員を雇っており部外者が入り込むのは難しい。
工場内は機械の騒音が大きく、しかも工員は当時耳栓をしていたので、女の声が聞こえて振り向いたと言う供述には疑いがあったので、A氏は保証金目当ての事故を疑い聞き込みを始めたそうだ。

実際に女と会ったと言う工員や食堂の店員は多くいた。
しかし、事故の後、女を見たと言う者はいなかった。

女の正体は掴め無かったが、工場の警備に問題は無さそうだった。
保証金目当ての線は、工員が敢えて疑われる様な証言をすると言う点や、工員の親族も工場で働いていると言う点等、諸々の現地事情で消えた。

上司と相談の上、A氏は事故を起こした工員の証言を書き換え、報告書ではタダの事故として本社に提出した。

A氏はその後、オカルト視点から現地の伝承等を調べたのだが、妖怪「一口頂戴」の様な伝承等は無かったそうだ。

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