悪意のある道案内

カテゴリー「心霊・幽霊」

5年ほど前、某県某所、知る人ぞ知るどころか、最も有名と言っても過言ではない某心霊スポットに行った時の話。

当時の私は大学一年。
文芸サークルに所属していて、某県を訪れた理由はそのサークルの合宿。
文芸サークルの合宿だから親睦旅行みたいなものだ。
観光地として有名な土地だから、日中は観光して夜は宴会。
何故かその手のサークルにしては人数が多かったので、観光はグループに分かれての自由行動だった。

私がその心霊スポットに行こうと決めたのは、「まあ、一回ぐらいはそういう体験をしておくのも」と考えたから。
文芸部員として色々な小説に挑戦してみたいという気持ちもあり、霊感なんて微塵にもないけれど、以後役に立つ経験が出来るかもとも思っていた。
仲の良い怪談好きの先輩もサークル内にはいたし、その人との話のネタにもなるから一石二鳥。
しかし、本当のところ私は実際には小心者で臆病者で、当日まで行くかどうかは迷っていた・・・。

その日は夏だったが都合の良い事に薄曇りで暑くはなかった。
午前中に目当てにしていた古書市を回った後、その他の観光地をいくつか巡っていざ某心霊スポットへ。
合宿前に事前に調べておいたバスに乗って、最寄りの停留所についたのは午後4時頃だった。
夏なのでとても明るい。(暗いと怖いから)
ところが、バスを降りて早々問題が発生する。

最寄は最寄なのだが、その心霊スポットが目立っているわけでもなく、どこにあるのか分からないのだ。
看板は出ていない。

当時の私のガラケーにはGPSどころか地図も無い。
家で調べた時の事を思い出そうとするも記憶は曖昧で、自分の向いている方位すら分からない。
太陽出ててもどうにもならなかっただろうけど。

とにかく私はバス停の近くを歩き、あわよくば心霊スポット自体を、そうでなくとも目印か何かを見付けられないだろうかとしばらく探ってみた。
けれど土地勘の無い場所であまり遠くまで動く事も出来ず、十数分ほどうろついたところで自力での発見を断念。
そうなれば、後の方法は一つ。
人に道を訊く事だった。

平日の真昼間で、観光地から少し離れたその場所に人通りは無い。
けれど幸い、バス停から少し歩いたところにペットショップがあった。
しかも、店員らしき人は店の前で作業をしている。
私は意を決して彼に話し掛けた。

私:「あのー、すいません。~って、どこにあるか分かりますか?」

彼は少し不審そうな顔をしたが、作業の手を止めて立ち上がり、腕を上げながら答えてくれた。

店員:「それなら、そこの角を右に曲がったところですよ」
私:「あ、すみません、ありがとうございます!」

礼を言い頭を下げ、歩き出す。
しばらく歩いて振り返ったが彼はすでに店の中に戻っていた。
そして、十字路で彼の指差した方向に曲がった。

それからおよそ五、六分は歩いただろうか。
私はいまだ目的地に辿り着けないでいた。
もう少し歩けば見えるのだろうか。
それとも道中にあったのを見逃したのだろうか。
先ほどの店員の口ぶりからは、歩いてすぐにあるように思えたのだが。

ほんの少しだがその道は坂道になっていて、私の気は削がれていく。
けれど、わざわざここまで来たのに諦めるというのも嫌だ。
見逃したと考えて戻って、実は戻らないのが正解だった、という事になるのは困る。
と言って、このまま進んで無かったとしても無駄足だ。バス停も遠ざかる一方だ。

「こんな事なら、ちゃんと地図を印刷してくるんだった・・・・・・」

歩き続けながら、そんな事を考える。
やはり、やるべき事は一つしか無かった。

今度は雑貨屋だった。
商品を買いにきたわけでもなく、ただ道を尋ねるというのは気が引けたけど、この際仕方が無かった。

私はその店に入り、奥のカウンターにいた女性店員に先程と同じように話し掛けた。

私:「すみません、~ってどっちに行けば良いんですかね?」

彼女はわざわざ店の前まで出てくれて、指で私がきた三叉路を示して教えてくれた。

女性店員:「そこの右の道をまっすぐ行ったところです」

私は例のごとく礼を言って再び歩き出した。

違和感に気付いたのは、その三叉路に着いた時だ。
私は彼女の指差した方向に行こうとして、疑問に思った。
私はその心霊スポットの最寄りのバス停で降りたはずである。
そもそも、こんな長い時間歩き続けた事からしておかしかった。
それなのに、進むよう示された道は、更にバス停から遠ざかる方向に向いている。
その道を行くべきか、反対の道、つまりさっきまで歩いた道を逆に行くべきか?
ほんの一瞬だけ迷って、僕は『右の道』を選んだ。

『右の道』は、バス停へと戻る道だった。

バス停へと引き返しながら、私はその事にはっきりと気付いた。
要するに、おい左を見てみろ⇒馬鹿めこっちは右だ!

こういう事だ。
雑貨屋の店員は、確かに「右の道をまっすぐ」と言っていた。
けれど、私は三叉路に着く『左の道』に進もうとしていた。
理由は明白だ。
彼女は「右」と言いながら、指では『左』と差していたのである。
そして、その前のペットショップの店員も。
彼は「右に曲がったところ」と言っていた。
だが、私は『左』に曲がっている。
彼も、「右」と言いながら指では『左』を差していたのだ。

結果として、その心霊スポットには辿り着く事が出来た。
目的地は、ペットショップ店員の「言葉通り」、角を右に曲がってすぐの所にあった。

しかし、人が方向を教える時、言葉で右と左を間違える事はあっても、指で差す方向を間違える事はあるだろうか。
それも一人ではなく、離れた所にいる二人が同じように。

たとえばもしも、私が彼らの言葉に気付かず、指差す方向に誘われていったなら。
私は、一体どこに辿りついていたのだろうか。
そう思うと、今でも怖くなる。

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