O県N市・・・。
まぁ俺の地元なのだが、ここにはいわくつきの祭りというものがある。
Y川下流域の河原で毎年夏の終わりに行われているT祭りというもので、元々は、大昔にY川が干上がった際に人柱にされた二人の兄妹への鎮魂とためのお祭りだったそうだ。
「妹は妊娠していた」とか「兄妹は迫害されており、無理やり人柱にされた」といったような穏やかでない話がたくさんあるが、真偽のほどは定かではない。
ただ、あまり納得のいく形で人柱にされたわけではないことは確かなようで、その証拠に、兄妹の恨みか悲しみか、毎年お祭りの日には必ず雨が降ると言われている。
事実、俺が知る限りでは毎年その日は雨が降っていたように思う。
どんなに晴れていても、必ず通り雨などがあるのだ。
という話を数年前、俺が大学生だった当時、一緒に心霊スポット荒らし(心霊スポットでバカ騒ぎをしたり、カップルを冷やかしたり)をしていたのっぽのYと茶髪のAという友人二人に話したところ、「是非行ってみたい」「連れて行かないとお前の車ぶっ壊す」と聞かない。
「高3まで毎年行ってたけど何も見たこと無いし、期待できないぞ」と言ったのだが、「大丈夫だって、最近なんか俺ら霊感強いみたいだし、きっとなんか出るよ」と笑顔で返され、渋々ながらも久しぶりに地元の祭りに行くことになった。
大学二年の夏である。
さて、友人を祭りに連れて行きたくなかった理由は二つある。
まず一つは、祭りで出店を出しているおっちゃん達が結構な確率で知り合いだということだ。
田舎は実に狭い。
冷静に考えればどうでもいいことなのだが、何か妙に恥ずかしい気がする。
そしてもう一つ、最近の自分達の霊との遭遇率を考えると、本当に何か出そうな気がしたからだ。
幼い頃から慣れ親しんだ地元の祭りで霊体験などしてしまったら、恐ろしくて地元に帰れなくなるかも知れない。
そんな心配をよそに、俺の運転する車の中でAは爆睡、Yはカーステレオから流れてくるB’zの曲を熱唱していた。
実に腹立たしい。
現地に到着し、車を近くの臨時駐車場に止め、しばらくは普通に祭りを楽しんだ。
天気はやはり雨だったが、降ったり止んだりで、傘もいらない程度の弱さだった。
俺は中学、高校時代の友人に会って世間話をし、Yは出店の料理を片っ端から食い、Aはプレステ2が景品のクジ引きにはまっていた。(当時は発売されてからあまり経ってなかった)
「やめとけA」、そのクジ引き屋のおやじは俺が小学生の頃からいるが一度も2等以上を見たことがないぞ。
祭りも終わりの時間が近づき、しょぼい花火が上がり、出店のおっちゃん達は勝手に酒を飲み始め、ほとんどの出店が開店休業のような状態になっていった。
田舎の祭りなんてこんなもんだ。
「で、お前ら何か見えたか?」
皮肉交じりに俺がAとYに尋ねる。
「焼きそばの素晴らしい旨さが見えた」とY。
「あのクジ引きは詐欺だってことが見えた」とA。
お前ら舐めてんのか。
つーか3000円もクジにつぎ込むな。
そんな感じでまったりとしていたのだが、不意に周りの喧騒が遠くなったように感じた。
辺りを見回せばすぐ近くでおっちゃん達が缶ビール片手に騒いでるのだが、音だけが遠くに感じる。
Yを見ると泣き笑いのような表情をしている。
Aは無表情だったが、険しい目つきで周囲を見回している。
どうやら全員、何かを感じたようだ。
「おい・・・」きょろきょろとしていたAが川の方を見つめながら呼びかける。
「あれ、やばくないか?」
そうつぶやくAの視線の先、川の丁度真ん中辺りに人影が見える。
しかし、どう見ても普通じゃない。
全身が見えている。
足先までがはっきりと見える。
祭りを行っているY川下流域は、確かにそんなに深い川ではないが、それでも一番深い川の真ん中辺りは1m以上は裕にある。
人影が見えるのは丁度その辺りで、水面に出るほど巨大な岩もその辺りには存在しないはずである。
それはつまりどういうことか。
あの人影は水の上に立っているということにならないか?
一瞬でそこまで考えた直後「ザーッ!!!」と、傘もいらないほどの小雨だったのが、突如前が見えないほどの大降りになった。
「もう撤収するぞ!あいつ近づいてきたらマジ死ぬ!」Yがそう叫び、俺達はその言葉に従って早々に撤退することにした。
『本当にやばそうなのがいたら身体が動く内に逃げること』俺達が何度かの霊体験で学んだことの一つだ。
濡れた体を乾かすため、すぐ近くの俺の実家に向かったのだが、向かっている間中ずっと、雨にまぎれてすすり泣くような声が聞こえてたのはしんどかった。
俺はその後季節外れの風邪を引き、丸2日間寝込むことになり、肝が太いYとAも、二度とその祭りに行こうとは言ってこなかった。
俺もそれからその祭りには行っていない。
霊感あるやつはT祭りには行かないほうがいい。
最初に書いた人柱云々と関係あるかどうかはわからないが、あそこにはガチでやばい何かがいる。