くるしいよたすけて

カテゴリー「心霊・幽霊」

数年前の話。
私の祖父母の家は実家から車で何時間か行った所にある。

場所が場所なので高速を使ったり山道を走ったり。
小さい頃から夏休みなどの長期休みでは必ず祖父母の家に行っていたので、そのときも毎年と同じルートで父が車を走らせていた。
到着までは何時間もかかる上に、毎回おなじみの道。
必然的に運転手の父以外の家族は長時間の車内で特にすることも無いので、私を含めていつの間にか眠ってしまった。

そして何十分か、何時間かたった後、私はふと目を覚ました。
父は相変わらず運転しているし、ほかの家族はぐっすりと眠っている。
窓の外を見れば景色はまだ山の中。

ぼんやりとした頭でなんとなくその景色を眺めていると、そのうちにトンネルに差し掛かるのが見えた。

山々の景色から急に切り替わる視界。
父も運転に集中しているのか、会話はない。
暇だな、と思った私は何か曲でも聴こうと持ってきたカセットテープを適当に漁った(うちの車は古いのでカセットしか聴けない)。

さあ入れようと意識をそちらに向けたその時。
私は微かに違和感を感じた。
既に入っていたと思われるカセットがキュルルルルル・・・と、壊れたような小さな音を立てているのが聞こえる。

あー壊れたか(元々そんな感じだった)と悟ったが違和感の正体はそれだけではない。
何となく耳を澄ませていると、どうしてもその小さな音がどうも人の話し声に聞こえる気がする。

まさかとは思いつつも今度こそ集中してその“音”ならぬ“声”を聞いた瞬間、背筋が凍った。

「おかあさん、おにいちゃん、くるしいよたすけて」

気のせいではなかった・・・。
あのカセットテープが壊れたような音でその言葉が延々と繰り返されている。
それも小さな女の子の声で、時折悲痛なうめき声も混じって。

「おかあさんおかあさん」
「おにいちゃんおにいちゃん」
「くるしいたすけてたすけて」

・・・ずっと。

今思えば何であの時父に話さなかったのか、と自分でも不思議だ。
結局私はその“声”を家族に話しかけられるまで聞いてしまった。

その後何が起こるというわけでもなかったが、あれから数年たった今でもあの“声”は耳に焼き付いている。

「おかあさん、おにいちゃん、くるしいよたすけて」

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