友人の話。
アメリカに留学した時、学生仲間でキャンプに出かけ、開拓時代からある古い山小屋を改修したケビンに泊まったのだそうだ。
夜中、彼らは全員そろって目を覚ますことになる。
どこからか、子供の泣き声が聞こえてきたのだ。
不気味なことに、姿は見えないが明らかに建物の中でその子供は泣いていた。
一人が勇気を出して「どうしたの?」と声をかけてみた。
返事は返ってこなかったが、子供の泣き声に変化が生じた。
『・・・お婆ちゃーん、お婆ちゃーん・・・』
皆が見守る中、ケビンの床より黒い影がすうっと浮き上がって来た。
腰の曲がった老婆のようだ。
床を手探りしながら、声を出して探し始める。
老婆:『坊や、坊や、ああ何処に行ってしまったんだい?』
老婆が顔を上げると、友人たちは思わず「ひっ」と声を上げてしまった。
老婆の眼はえぐり取られて黒い空洞になっており、喉はぱっくりと切り裂かれている。
見えない両眼で、それでも『坊や坊や』と呟きながら床の上を探り続けていた。
女子の一人が金切り声の悲鳴を上げ、ケビン内は一時騒然となり、よそのケビンからも人が駆けつけてきたが、パニックはなかなか静まらなかった。
ようやっと皆が落ち着いた頃、老婆の姿は消えてしまっていた。
泣いている子供の声も聞こえなくなっていた。
後で聞くと、そこに住んでいた開拓者たちが野盗に襲われた記録があるそうだ。
しかし、犠牲者が出たとかそういう類の内容は記されていなかったという。