友人の話。
フィールドワークのため、山に一人こもっていた時のこと。
夕食後に水場で食器を洗っていると、何かが激しく後頭部に激突した。
ガンッ!
目から星が出た。
溜まらず膝をつく。
続けて重い物が水に落ちる音がした。
「何だ、何が飛んできたんだ?」
頭を振りながら水に手をいれ、拾い上げる。
目の前にあったのは、髷を落としたざんばら髪の生首だった。
生首は舌を出してにんまりと笑い、空に飛び上がる。
固まっている彼の頭上を何度か旋回し、尾根の方へ向けて飛び去った。
まるで現実感が感じられず、夢かと疑ったそうだ。
翌日は別の場所で野営したのだが、夕刻を過ぎると彼は落ち着かなくなった。
警戒が功を奏したか、やがて夕焼けの中を飛んでくる物体を見つけたという。
遠目では生首かどうかはっきりわからない。
強気な彼は、正体を確認してやろうと、杖を握り締めて立ち上がった。
しかし、彼はすぐに杖を取り落とすことになる。
生首は二つに増えていた。
もう正体を確かめるどころの話ではない。
一目散にテントの中に逃げ込んだ!
とても外を見る勇気はなく、そのまま夜が明けるのを待ったそうだ。
時々、含み笑いのような声が聞こえ、生きた心地もしなかった。
その地点から山を下りるのに、さらに二日かかった。
最終日、飛んできた生首は五つになっていたそうだ。
最初の激突以外には直接の被害はなかったが、無事に帰還できるかどうか不安で心細く、冗談抜きで発狂するかと思ったという。
帰ってから知ったのだが、彼が野営した地は、その昔刑場だった場所らしい。
しかも彼が食器を洗ったのは、斬り落とした首を洗っていた水場だとも聞いた。
「他の人たちは何事もなくあの場所を利用しているのに、何で俺だけ・・・」
彼はいまだに、そう愚痴をこぼしている。