ある時、出掛けようと駅の切符売り場に向かっていた。
すると後ろから声を掛けられて振り向くと、50代位のおじさんが立っていた。
おじさんの話はこうだった。
・自分は大工の棟梁である。
・訳あって入院中だが、直前まで手掛けていた家の上棟式が今日だ。
・皆にばれると止められるので黙って出て来た。
・今持ち合わせがないが、必ず返すので行きの電車賃を貸して欲しい。
おじさんの必死な行きたい!と言う気持ちが伝わって来て、1000円貸した。
で、自分も切符を買って電車に乗ろうと思ってた時、ふとおじさんの言ってた事を思い出した。
おじさんは黙って出て来たって言ってた・・・病院では問題になってやしないか。
事情だけでも説明しておこうと、聞いていた病院に電話を掛けた。(おじさんは病院名、病室の番号、自分の名前を言っていた)
病院に電話を掛けた。
俺:「すいませんさっき駅で◯◯号室の◯◯さんと言う方と会いまして・・~と言った事情でお金をお貸ししたものですが・・」
看護師:『はい、◯◯号室の○○さんですね。少々お待ちください』
暫く待っていると、保留音は無く向こうの声が少し聞こえる。
やっぱりすぐ言えば良かったかな?と思いつつ聞いていると、揉めている様な声が聞こえ、別の看護師が出た。
看護師:『○○号室の○○さんですか?』
俺:「はい、ご本人はそう仰ってましたけど・・(寸借詐欺とかだったのかな?)」
看護師:『何時頃ですか?』
俺:「10分位前ですが・・(やっぱりまずかったかな?)」
看護師:『○○さんは今朝お亡くなりになりましたが・・・』
俺・看護師:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺:「・・あの・・・どういう事ですか?」
看護師:『・・・ですから○○さんは今朝・・・なので10分前に駅に居る事は・・・』
すると受話器の向こうから何やら怒鳴っている様な声。
そして年配の看護師の声で、『申し訳御座いませんが、○○さんは今朝退院なされましたので、こちらにご連絡頂いても困ります』
俺:「あっ、あのお金を返して欲しいとかじゃ無くて、黙って出て来たと仰って居たので、病院の方で心配してるといけないと思いご連絡差し上げただけなので・・・退院したなら・・・いいんです・・」
看護師:『・・・はい・・・ご退院なされました・・あの・・わざわざご連絡頂きありがとうございました』
俺:「いえ・・では失礼致します・・・」
電話を切った・・・。
寸借詐欺などの人がたまたま身分を偽る為に使った人が亡くなった方だったのか、ご本人だったのかは不明だが、上棟式に行けていたらいいなぁ・・・と思った。