こういう季節になると幽霊絡みの話が増えて、たまに「霊が近寄ってきたら怒れ、怒りの感情は強いから霊が負ける」とかいう人がいるけど、やめておいた方がいい。
つっぱねた反動で回りに被害が及ぶ場合がある。
学生だった頃の話だけど、俺はしょっちゅうBMXで友達と遊んでたんだ。(ハンドルが360°回るやつって言えば分かり易いかな?)
いつものように遊んで飲んで、アパートに帰って寝たんだ。
何だか寝苦しくて起きたら、近くに何かがいるみたいだった。
俺は霊感なんて無かったからよく分からないけど、感情がそこにあった。
普通に生活してても、目の前の人が怒ってるなぁとかなんとなく感じる事あるでしょ?
空気を読むというか・・・
近くにいたのは「妬ましい」とか「恨めしい」とか居心地の悪さを感じるような類のものだったんだ。
冒頭の話に架かるが俺も怒ればいいかなと思ってね。
「飲みすぎで気持ち悪いんだばか!」
「明日講義なんだから寝かせろ!」
とか念じてたの。
1時間程で何かは消えてくれた。
数日後にまたBMXで遊んでたら、いきなりすっ転んでしまったんだ。
友人達に笑われながら起こしたら、ハンドルの所が裂けててちょっとした騒ぎになった
BMXてのは、ハンドルの軸の部分にリングとベアリングがはまってて、リングをワイヤーで引っ張ってブレーキをかけるようになってるんだ。
映像なんかで見ると分かるけど、結構タフな使われ方をするんでそんなにやわな作りじゃない。
俺も飛んだり跳ねたりしてるから週1のメンテナンスは丁寧にしてたけど、こけた時にはリングが裂けてた。
俺も友人達もそんな症状には縁がなかったんでショップに持って行って確認してもらったけど向こうも原因が分からなかったそうだ。
その日の晩に、また何かが来てた。
俺は日中の事もあってイライラしてたから、思い切りぶつけてやった。
「どうせてめーのせいだろ」
「ねちねちと気持ち悪い事すんじゃねえ!」
なかなかいなくならないもんだから一晩中やってやったら、そのまま寝てたらしい。
起きたら何の気配もなく、眠さだけが残った。
それ以来「何か」は来なくなった。
この事を話のネタにでもしようかと、友人達に会いに行ったら何だか様子がおかしかった。
話を聞いてみると、そのグループの一人Aが前日、近所のマンションから飛び降り自殺を図ったとの事だった。
運良く一命はとりとめたらしい。
それから数日が経ち、Aの容態も安定したとの知らせを受けて俺と友人達で見舞いに行った。
手足に顎、アバラと脊椎も折れてた。
意識はあるものの、励まそうと話しかけても「痛え」しか答えない。
数日前からの変わり様にみんな少なからずショックを受けてた。
帰り際、警察の人に呼び止められて色々話を聞かれた。
事情聴取というより、調査の一環みたいな感じだった。
Aがマンションから飛び降りる前、近所の住民がAを見かけて様子が変なので、110番通報している間に飛び降りたとのこと慌てて駆けよるとAは「助けて、助けて」とつぶやいていたという。
それから何度か見舞いには行ったが、まともな話も出来ないままAは退院、俺達に何も言わずいつの間にか大学を辞め、実家に戻ったそうだ。
しばらくして飲み会を開き、言いそびれてたネタを友人達に話したところ、皆黙り込んでしまった。
友人1:「それってもしかして生霊とかってやつじゃないの?」
友人2:「それを突っ返した日にAが飛び降りたんだぜ?もしかして・・・」
くだらない話にネガティブに盛り上がっていった。
本当勘弁してほしい。
俺はAに恨まれるような覚えはないし、Aを追っ払った覚えもない。
楽しく遊んだけど(少なくとも自分は)あまり深くは干渉してない。
それから数年後、俺を除く皆が就職し、俺は就活しながらバイト暮らしをしてたところにAの訃報が届いた。
就職組は忙しく、当時のメンバーの半分くらいしか集まらなかったが、式に参加してきた。
一通り済んで、飲み会(失礼、未だに「あれ」が何なのか良く分からない)にも出たんだが、Aの母親にあった時、何故か俺に謝ってきた。
理由は話してくれない。
ただ、「ごめんなさいね」って分からない事だらけのままだが、俺はなんとか就職して生活してる。
結局あれは唯の偶然だったと思いたい。
でないと民間療法のつもりで間接的に殺人未遂になってしまうからね。
常識超えた相手を常識超えた方法で仕留めるとか、怖すぎる。
伝聞が多くて申し訳ない。
親友というわけでもなかったし、飛び降り現場での聞き込みとかもしていない。
病院関係者と警察関係者、大学の事務員とかに聞いた事が全てだもんで。