もう二度と通らないと誓った

カテゴリー「心霊・幽霊」

台風が来ていた雨の日に”出る”と噂のトンネルを通った。

トンネルは町中とまではいかないが、交通量のある場所にあり、十数年通勤で使っているが一度も霊を視たことはない・・・。

その日も普段通りにトンネルを潜った。

何となく背後が気になりバックミラーを見ると、リアガラスに人影が映っていた。

ありえない!

時速50㎞で走っている車の背後に、一定の距離を取って人影があるなんて。
影は髪が長いのだと思う。
首が無かったから・・・。
頭があって、肩があった。

ぞわ、と鳥肌が立って、でも見えたのは数秒で、すうっと下に沈んでいって、後続車のライトだけがバックミラーに残っていた。

鳥肌が治まらなかったが、見間違いだと自分に言い聞かせた。

それから一週間後、まだ雨が降っている日・・・。
あれから通勤の往復で何度もトンネルを通ったが影は見えなかった。

やはり気のせいだったのだと安心していた。
そもそも霊感なんて無いし。

そう思いつつ、同じシチュエーションなのが気になっていた。

何時ものようにトンネルを通って、どうしても気になってバックミラーに目をやる。

また影があった・・・。
今度は両手が持ち上がっているようで、頭の横に開いた手の平の影もあった。

見間違いではなかったのか、と怖くなってアクセルを踏んだ。

影は前回と同じように、数秒間、一定の距離をおいてついてきて、すうっと下に沈んで行った。

通勤に使う道を変えようと思ったが、このトンネルを使わないと非常に遠回りになる。
田舎なので道路が少ない。
30分は余計にかかる・・・。
でも怖かったので朝はともかく、帰宅は別の道を使うようにした。

そして数日前。
残業が続いていて疲れていて、わざわざ遠回りをして帰るのがキツかった。
雨も降っていない。
だから、”あの”トンネルの道を選んだ。

トンネルまであと数百メートルというところで雨が降り出した。
嫌だなと思ったが横道もUターンするスペースもなく、後続車もあって進むしかなかった。
トンネルを潜る。
バックミラーを見なければ良いのだが、見なければ見ないで怖い。
見ないようにと思っていたのに、ちらっとバックミラーを見てしまった。

影が黒くなかった。
影の中央、顔にあたる部分と手の平が白く見えた。

近づいているのか!?

そう思ったらもう我慢ができなくて、涙目で飛ばして近くのコンビニに入った。
情けない話、足ががくがくと震えていて車から降りられない。
少し遅れて後ろからついてきた車がコンビニに入ってきて、運転席側の窓をノックされた。
「おい、大丈夫か?」

そう言われて、答えられなくて、でも大丈夫ではないので頭を横に振った。
後続車の運転手は頭の散らかったオッサンで、青い顔をしていた。

オッサンが言うことには「トンネルを抜けたところで前を走る車の窓にベッドリと張り付く真っ黒い人影が見えた。なんだ?と驚いたところでスピードを上げたので、運転手は見えているのかもしれないと追いかけてきた。見えたのは一瞬で、頭がオカシイと思われたら嫌だと思ったが、運転席で震えているのを見て見間違いではなかったと確信したので声をかけた。」

オッサン:「俺は霊感なんかないし、生まれてこのかた一度も幽霊なんか見たことがない。ついさっきまで信じてさえいなかった。そんな俺でもアレはやばいと分かった。悪いことは言わないから、もうあの道を通るのはやめた方がいい。」

頷くしかできなくて、震えていたらオッサンがコンビニで珈琲を買ってきてくれて、落ち着くまで一緒にいてくれた。

もうあのトンネルは通れない。
朝だろうが雨が降っていなかろうが、もう二度と通らない。

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