婆ちゃん、一緒に行こう

カテゴリー「心霊・幽霊」

俺が小学生の時、父親が再婚した。

相手は看護師で元気が良い人だった。
そして、それと同時に一緒に暮らしてきた婆ちゃんが一人暮らしを始めた。

もともとその結婚相手も、婆ちゃんが通っていた病院の看護師で、婆ちゃんが見初めて親父に会わせたんだけど、婆ちゃんも物凄く気が強いので、一緒にいると衝突するから、と早々に自分で部屋を見つけて引っ越していった。

確かに新母ちゃんは物凄く気が強くて、大人になった今となっては婆ちゃんの判断は正しかったと思うのだが、当時の俺は、新母ちゃんが婆ちゃんを追い出したように思い、隣の町内に住むばあちゃんの家によく遊びにいった。

婆ちゃんは若い頃に大きい病気をやって、そのせいで(病気の影響か薬の影響かは不明)髪の毛がちょっと少なくて、若い頃からずっとカツラを被っていたんだが、それがまた真っ赤でオカッパ頭という派手なものだった。

毎日化粧をして、真っ白いシャツに黒か紺のズボンというのが定番スタイルだった。
家に行くとこのアパートの誰某のゴミの出し方が悪いから説教しただの、夜中まで映画を見てるからちょっと怒ってやっただの、相変わらず気の強い婆ちゃんで安心をした。

あと、隣に住んでいたのは自営業のおじさんらしくて、俺が婆ちゃんの部屋にいった時に、気がついたら俺にアイスクリームやお菓子をくれたりもしたので、それ目当てで通っていたのもちょっとある。

ところが、婆ちゃんがちょっとした事故に遭い、膝の手術をすることになった。
手術した後もしばらくリハビリが必要で、一人暮らしは無理ということで、退院後はうちに来ることになった。

病院が遠かったので俺はお見舞いにはいかなかったんだが、退院して家にきた婆ちゃんを見て物凄く驚いた。

あんなに元気だった婆ちゃんがヨボヨボのお婆ちゃんになっていたからだ。
見た目がそんなに変わったわけじゃないんだけれど、わかりやすく言うなら、パンパンに膨らんでいた風船がしぼんでしまったような感じで、声にも張りがなく、動きも緩慢で、二言目には「迷惑かけてごめんね」と、やたらと卑屈な感じになっていた。

リハビリがはじまっても、婆ちゃんはなかなか元気にならず、歩けるようになっての昔の様に散歩にいくこともなかった。

心配した新母ちゃんが、婆ちゃんを元の部屋にもどそう、と言い出した。
親父は反対したが、婆ちゃんに必要なのは今は一人の時間だ、と言い、婆ちゃんは一人暮らしに戻った。

婆ちゃんは一人暮らしを再開すると、また少しずつ前のように戻っていった。
化粧をして背筋ものび、声にも張りがでて元気になっていった。

ただ、親父はどうも婆ちゃんの一人暮らしに反対だったらしく、婆ちゃんの家にいき何度も家に戻るように説得をして、最後には、嫁と離婚してもいい、とまで言い出した。

結局、根負けした婆ちゃんはアパートを引き払い家に戻り、新母ちゃんと親父と婆ちゃん、そして俺の暮らしが始まった。

その時点で既に新母ちゃんがメインとなって家がまわっていたので、婆ちゃんは家にきてもすることがなく、新母ちゃんが気を使って用事を頼むんだが、婆ちゃんもヘソをまげて「そんなの自分でできるだろ」とやらなかった。

しばらくして、婆ちゃんにボケの症状が出てきた。
食事をしてしばらくして「ご飯はまだ?」、とか、買って来たケーキを自分で食べておいて「誰がケーキを食べた!」と怒ったりした。

爺ちゃんのお墓にいってきた日の夜、突然「今日は爺ちゃんの命日なのにお墓にいかなかった!今からでもいいからいく!」と喚いたりもした。

徐々に婆ちゃんは壊れていった。
以前のように風船がしぼんだ婆ちゃんになり、動きも遅くなり、やたらとうつむいていた。

その反面、何か問題があると声をあらげて大騒ぎして、両手両足をバタバタさせて大暴れした。
家の中は混乱して、家族みんながギスギスしてきた。

それからしばらくして、婆ちゃんが道端で倒れ、救急車で運ばれた。
脳の血管が詰まり、命は助かったんだけど、体が不自由になってしまい、入院していたんだけど、結局死んでしまった。

婆ちゃんが死んで1ヶ月くらいした頃だと思う。
新母ちゃんと俺は同じ夢をみた。

婆ちゃんが隣の部屋にいるんだけど、そこに入ろうとしても俺は(新母ちゃんは)入れない、という夢だった。

朝二人で話をして「同じ夢をみるなんてねぇ」と母ちゃんが驚いていたけれど、ふと、俺はあの隣の部屋はこの家の部屋じゃなく、婆ちゃんが暮らしていたアパートの部屋だと気付いた。

何となく気になって、その日の夕方友達と遊ぶ、と嘘をついて婆ちゃんが住んでいたアパートにいってみた。

婆ちゃんが住んでいた部屋には他の人が既に住んでいるみたいで、残念ながら中に入れなかった。

何となく中に入ったら婆ちゃんがいるような気がしたので、窓からのぞいてみようかと思ったんだけど、無理だった。
すると、隣のおじさんがコンビニの袋をぶらさげて帰ってきて、俺を見て驚いた顔をした。

俺は気まずかったので、「実はこの前婆ちゃんが死んで、お世話になったので挨拶にきた」と咄嗟に嘘をついた。

実際には死んで1ヶ月以上経っていたから、追求されたらどうしよう、とドキドキした。
ところがおじさんは、神妙な顔をして「あんまりこういうこと言うことじゃないかもしれないけど・・・・・・」と俺に話をしてくれた。

婆ちゃんが入っていた部屋には、若いサラリーマンが入ったらしい。
おじさんもサラリーマンと話をするようになったんだけど、ある日サラリーマンが「この部屋誰か死んだんですか?」と聞いてきた。

「おばあさんが住んでいたけど、息子さん夫婦と暮らすために引っ越した」と説明したら納得の行かない顔をして、「毎日お婆さんの夢をみる」と言った。

部屋にいると大きな蛇がでて、「出て行け」「この部屋は私の部屋だから出て行け」と言い、よく見るとその蛇は真っ赤なオカッパ頭のお婆さんだった、という話をしたらしい。

それを聞いて、ああやっぱり婆ちゃんはまだここにいるんだ、と思った。
でも、俺にはどうすることもできないので、家に帰りその話をした。

親父は「バカらしい」と相手にしなかったけれど、新母ちゃんは「御婆ちゃんを迎えに行こう」と言ってくれて、日曜日、手土産をもって婆ちゃんの住んでいたアパートに一緒にいった。

サラリーマンの人にお願いして部屋に入れてもらい、婆ちゃんの好きだったケーキとジュースをお供えして、「おかあさん、一緒に帰りましょう」と声をかけた。

俺も「婆ちゃん、一緒に帰ろう」と一緒に言った。

新母ちゃんは、「おかあさんがどう思っているかはしりませんが、私は短期間でもおかあさんと暮らせて幸せでした。できたら、これからも一緒に暮らしたいので、お願いだからうちに戻ってきてください」とお願いした。

俺も「婆ちゃんと一緒がいい。一緒に暮らそう」と言った。

反応はなかったけど、新母ちゃんが「よし、まあこれでいいよね」と言い、サラリーマンの人にお礼を言って手土産を渡して、念のため自分のところの連絡先を伝えた。

その後、婆ちゃんが帰ってきたかどうかはわからないけど、隣のおじさんのところにいったとき、サラリーマンの人は夢をみなくなった、と言っているから、多分家に帰ってきたんだろうな、と思った。

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