俺だけに聞こえた鳴き声

カテゴリー「心霊・幽霊」

俺が中2の時の話。

その日、俺は1学期の期末テストの為に徹夜していた。
でも、真面目にずっと勉強できるはずも無くだらだらテレビ見たり漫画読んだりしてたんだ。

それでいい加減勉強に力入れないとヤバイぞっ・・・ていう3時か4時頃の事だったと思う。
ちょうど、テレビも放送終了してきたし、電源切って勉強に集中しはじめてたんだ。
さすがに深夜だけあって、周りの物音はほとんど無かった。
遠くで車や単車の走る音が聞こえる程度。
部屋の中ではクーラーや時計の音と自分の独り言がひと際よく聞こえていたような気がする。

すると突然「フギャ~、フギャ~」と子供(幼児?)の泣き声らしきものが聞こえた。

一瞬ドキッとはしたが、近所の子だろうとそんなに気にする事もなかった。

実際、俺はマンションに住んでいて更に俺の部屋はマンションの廊下に面した場所にあったので、外の話し声や物音は良く聞こえるのだ。
深夜に聞こえるのは初めてだったが夕方とかには子供の声はよく聞こえていた。

しかし、すぐに聞こえなくなると思っていたその声は予想に反して止むことはなく、ずっと聞こえていた。
しかもよく聞くと廊下を行ったり来たりしながら延々と泣き続けていたのだ。

『何か悪戯でもして家から放り出されたのか、でもこんな深夜に!?いくらなんでも可哀想だろ。それにこんなに泣き続けられたら近所迷惑もいい所だ。』

・・・そう考え、泣いてる子を親の所に連れて行ってやる事にした。

俺も経験があるが、近所の人が一緒に謝りにいくとほぼ100%許してくれて家に入れてもらえるはずだ。
そんな決心をしている最中も泣き声は聞こえ続けていた。

俺は幼い子を助けるという妙な正義感に興奮しながら玄関を出てその子を捜そうとした。
しかし、玄関を出てみると、姿はおろか泣き声も聞こえなくなってしまい不信には思ったものの、少しだけガッカリしながら俺は部屋に戻った。

部屋に戻るとさっき変に興奮していたせいか勉強が手につかず、何故か整理をしたりしていた。
散らかっていた漫画を片付けていると「フギャ~、フギャ~」とまたあの声が聞こえ始めた。

『またかよ!マジでいい加減にして欲しいな』

今度は抗議でもしてやろうと再び玄関を出た。

するとまた姿も声も無くなり閑散とした廊下だけだった。
この辺りでさすがに薄ら寒いものを感じたが、『まぁ、ドアを開けてもう一回放り出すとか言われたんだろな』と無理に自分を納得させ部屋に戻った。

次は整理すら手につかず、変な圧迫感を感じながらボンヤリしていた。

『また泣き声が聞こえるんじゃないか、いやもう許してもらってるんはずだから・・・』

・・・などと堂々巡りの問答を一人で繰り返していた。
20分位そんなことをしていたと思う。

泣き声が聞こえなくなりホッとしたような、期待外れのような微妙な気分だったが、早く勉強しないとと考え直していたその時だった。

「フギャ~、フギャ~」

遂に聞こえ出した・・・。

さっき泣き声を少し期待していた自分を悔やむ程、俺は恐怖した。
泣き声が聞こえ出しただけでなく、その発生場所が部屋の窓の外からだったのも恐怖を倍増させた。

今までは廊下の端から端へ移動しながら泣いていたが、今回は俺の部屋ピンポイントで泣いている。

本当に恐怖を感じると人は動けなくなると初めて知った、逃げたいが体が動かないのだ。

「フギャ~、フギャ~、フギャ~」ドンッ「フギャ~、フギャ~」

ドンッ

『泣き声と一緒に何か叩いてる!?クーラーだっ!!』

俺の部屋のクーラーは窓に備え付けるタイプのものでそれを外から叩いているのだ。
このタイプのクーラーを見た人は知っているだろうが、電源をつけている時は窓を閉める事ができず開けっ放しになるのだ。

『ヤバイ、今はクーラーの裏だが窓の方に手を伸ばせば窓が開いてしまう!』

気持ちは焦るが体はすくんで動かない。
いや動いても多分窓を閉める勇気は無かったと思う。
泣き声と叩く音に釘付けになっていたが、やがて音が止み窓に手の影が見えた。

俺は多分泣いていたと思う。

「フギャ~、フギャ~」

ペタッ

「フギャ~」

窓を小さな手で叩いてる。
何度も同じ場所を泣きながら叩いている。

叩いているうちに窓が少しずれた。

『鍵が開いていることに気づかれた!!』

手が窓を開いていく、窓が開き小さな手が防犯柵を掴んでいるのが見えた時、俺は叫び声を上げて自分の部屋を出た。

その時体をどう動かしたか良く覚えていないが、ドアノブが壊れていたのを思うと相当の力を出していたみたいだ。

その後の事は気が動転していたのかあまり覚えていないが、家族全員が起きてきて俺の話を聞いてくれた。

結局、姉の「私も試験勉強で起きてたけど泣き声なんて聞こえなかった」という意見で俺の夢という事で終わった。

でも、姉は俺が2回外に出た事は知っていた。
窓も開いていた。

夢だとしたらどこからが夢なんだ?

いや!あれは絶対に夢じゃない!

俺はあの泣き声と小さい手、そして窓が開いた時に見えた黒い髪と充血した目を夢にして忘れる事なんてできなかった。

その後、俺はどれだけ暑い日でも日が沈むとクーラーを切り窓を閉めた。
そして寝る時はテレビかラジオを必ず点けっぱなしにしていた。

高校は全寮制を選び、大学も一人暮らしを選んだ。
その努力の結果か泣き声にも子供にも会うことはなかったが、今でもあれは夢ではないと言い切ることが出来る。

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