小学校2年生の時に、じいちゃんが肝硬変で入院したから、学校帰りに毎日見舞いに行ってた。
母親が来てたりすると、自分はのけものになっちゃうんで、そういう時は病院内を探検していた。
病院は市立の総合病院で大きかったけど、建物が古くて陰気臭かった・・・。
ある日、1階まで降りるためにエレベーターに乗った。
エレベーターは2階を過ぎたのに、止まる様子がない。
1階のボタンはライトがついているのに止まらず、地下2階でドアが開いた。
ドアから顔だけ出して左右を見ると、薄暗いし誰もいない。
よせばいいのに、エレベーターを降りて探検を開始した。
部屋数は少なかったし、見る物もないから、戻ろうって考えていたら、お線香の匂いがしたような気がした。
お線香ってことは、仏様の仏壇があるんだ?
そう考えたら急に恐くなってきて戻る事にした。
来た廊下を戻ろう!と思い、後ろを見たら、自分よりちょっと年上らしい女の子が通り過ぎた。
きっとあの子も探検してんだな、とその子に話しかけようと思って走っていったら、その子はもういなかった。
その時は、なんとも思わなかったんだけど、今思えば変だ。
そんなに速く廊下の突き当たりの角を曲がれるわけないんだよ。
恐いから足速にエレベーターの方へ向かったんだけど、ないのよ、エレベーターがさ。
道を間違えたかもしれないんで、行ったり来たりしてたけど、ない。
その頃には、もう半泣き状態になってたら、階段のサインを見つけた。
ドアを開けると、それはスロープだった。
とにかく上へ行けるから、そのスロープを上がり始めた。
しかし踊り場はあったけどドアがない。
とにかく上を目指そうって歩き始めたら、下から「ガラガラガラガラ」と音がする。
ストレッチャーだ。
なぜかそいつに追いつかれちゃいけない!と思ったんで走り始めた。
次の踊り場にもドアがない。
下からは、ガラガラと音が近づいてくる。
怖くて走り始めたら耳元で「どこ行くの?」って女の子の声がする。
もちろん周りには誰もいない。
もうパニックで大泣き。
「ガラガラガラガラ」という音と、「どこ行くの?」・・・。
3つ目の踊り場にもドアはない。
「ガラガラガラガラ」
「どこ行くの?」
もうダメだ。
何がダメなのかはわからないけど、そう思った。
4つめの踊り場にはやっとドアがあった!
でも、押しても引いても開かないんだ。
ストレッチャーの音はすぐ近くまで来ている。
「どこ行くの?どこ行くの?」
声は壊れたレコードみたいにそれだけを繰り返す。
そのドアはパニックバーがついてて、そのバーを押さなきゃ開かないことにやっと気付いた。
バーを押しながらドアを思いっきり押したら、開いた。
出た所は1階のロビーの近く。
ギャン泣きしてた自分を看護師のお姉さんが見つけて保護された。
あれはー体何だったんだろう?
もちろん、それ以来探検はやめた。
6年後にその病院に盲腸で入院したんだけど、その時は新館病室だった。
あの恐い思い出があったから、探検なんてしてないんだけど、どうしても気になったのがあのスロープでさ。
普通は踊り場ごとに出口があるよね。
でも、あのスロープは4階まで出口はなかった。
でも調べに行くにはかなり勇気がいった。
盲腸の手術なんて3日もすれば、メインの痛みは消えてくるから暇なわけ。
それに加えて、看護師さんには「歩け歩け」って言われるんで、1回だけ本館まで歩いて行ったんだ。
階段のある場所はロビーの近くってはっきり覚えてたから、行って見たんだ。
あったよ。
扉がそこに。
寒気がして来たけど、ここまで来て引き返せない。
ドアを開けて中を見るだけならいいだろうってドアを開けた。
中には入らないで、ドアが閉まらないようにして身を少し乗りだしてみたら、スロープは存在してた。
偶数階の踊り場にドアがないのは折り返すためだから?
そう考えると、4つ目の踊り場にドアはないはずだ。
でも自分は1階のロビーの近くに出た。
恐くなってそこから離れようとドアを閉めながら考えたけど、まあ、恐くて数を数え間違えたんだろうな・・・。
後ろ振り返ったら警備員のおっさんがいて「ここで何してるんですか?」って聞かれた。
とっさに嘘がつけず、小さい頃の恐かった話をかいつまんでして、確かめようとしたと言ったら、その警備員のおっさんいい人で、このスロープの説明をしてくれた。
ここは、緊急時に自分で歩けない患者さんも避難できるようにつくられた。
地下1階、地下2階には患者さんが行くこともないし出口はないとのこと。
じゃ、あの体験はなんだったんだよ。