これは今から約15年ほど前、私がまだ子供だった頃の話です。
この当時、私は夏休みの中の4~5日間、ある団体の夏合宿に毎年参加していました。
そこでは規則正しい生活をしながら、いろいろな人の講演を聞いたり、ためになる映画を見たりして過ごしていました。
その年も例年同様、その合宿に参加していました。
10名程度ずつ、いくつかのグループに分かれます。
そして、私のいたグループの中に藤田くん(仮称)はいたのです。
藤田くんはごく普通のどこにでもいるような少年です。
この時初めて出会ったのですが、すぐに打ち解けて仲良くなりました。
ただ・・・藤田くんには非常に特殊な能力がありました。
それは霊が見えたり、霊言が聞こえるということ・・・。
ある夜、藤田くんは突然、こんなことを言い始めました。
藤田くん:「部屋に何かがいる・・・」
私を含めグループのみんなはすでに藤田くんのその特殊な能力のことをいろいろと聞いていたので、部屋の中は妙な緊張感に包まれました。
藤田くんの話によると、聞こえてくるのは藤田くん自身の守護霊ということだそうです。
そして藤田くんはその守護霊の生い立ちから現在にいたるまでの話を語り続けました。
そしてついに核心に触れる話が始まりました。
それは、「邪悪な霊」がかなり強力なこと、人に危害を加えるほどの力をもっていること、そして「邪悪な霊」がなぜここにいるかということ・・・。
それはあまりにも恐ろしい話の連続でした。
そして、藤田くんの次の言葉を聞いたとき私たちは凍り付きました。
藤田くん:「今晩、その邪悪な霊はこの部屋の中に入ってくる。天井のどこかが光ったら、絶対に目をつぶれ。絶対に背中を見せるな。命の保証はないぞ」
恐怖のあまり、みんなの顔はこわばっていました。
それでも藤田くんは話を続けました・・・。
藤田くんの話はなお続いていました。
そして、さらにはこんなことを言いだしたのです。
藤田くん:「ここでの出来事を口外してはいけない。もし、しゃべったら聞いた人に危害がおよぶ・・」
藤田くんの話が終わり、床についたのですが、眠る事など出来るはずもなく、寝たのかどうかもわからぬまま、朝を迎えました。
みんな一様に「光見た?」と聞きあいました。
幸い、光を見た人はいませんでした。
とてつもなく恐怖の時間を過ごした私たち。
しかし、実際に霊の言葉を聞いたのは、藤田くんだけであって、他の誰も聞いているわけではありません。
藤田くんの狂言という可能性だってあるのです。
現に「藤田くんは嘘つきだ」と言い出す人もいたぐらいですから。
しかし・・・昼過ぎ、数時間の自由時間がありました。
ある人は話をしたり、ある人は昼寝をしたり。
私は昨晩、ほとんど眠ることができなかったこともあり、横になってうとうとしていました。
しかし、ちょうど眠りかけたとき、一人が「ぎゃ~~」と叫びだしました。
そして部屋の皆が騒ぎ出したのです。
「幽霊だぁ」
みんなが私のほうを指差していました。
失礼な!
誰が幽霊だ!
そう思いながら、ふっと後ろを振り返ると・・カベに青白く光る人の影がくっきりと浮かび上がっていたのです。
さすがの私もその場で腰をぬかし倒れこんでしまいました。
しかし、目の前に幽霊がいるわけですから、じっとはしていられない。
なんとか部屋の出入り口までたどり着く事ができました。
と、そこへ藤田くんがやってきてその場に正座して手を合わせました。
そして一言、「この霊、目が一つしかない・・・」
ある人は泣き叫び、ある人は逃げまどい、私は動く事も出来ず、それこそ辺りは騒然としていました。
ただ一人、藤田くんだけがいつも通りひょうひょうとしていたのが印象的でした・・・。