昔、大学生だった頃に新聞配達のバイトをしてたんだけど、朝刊の配達途中で、時々すごく気味の悪い女の人を見かけることがあった。
いつも団地の同じ部屋の同じ窓から、ニヤニヤしながらこちらの方を見てるのだ。
それを見た最初のほうは気になって、自分もその人のことを見てたんだけど、そのうち、ちょっと危ない人かもって気がして、視線の端で姿を捉えるくらいで目を合わせないようにしていた。
ある日、その団地の配達を終えて、今日はあの女いなかったなー、なんて、ほっとしながら、バイクに乗って、配達を続けようとしたら、バイクのブレーキの効きが妙に悪くなっていることに気付いた。
さっきまで普通に効いていたのに、急にここまで効きが悪くなるなんてあり得るのか?
そう疑問に思ったが、ともかくこのまま配達を続けるのも危ないので、一度新聞販売所に戻って別のバイクを使おうと思い、結構長い坂道をそのバイクで降り始めた。
販売所まで近いし、時間帯的に(午前4時くらい)滅多に車なんて通らないし、傾斜も緩やかだしという油断があった。
坂道をくだりおりた所が信号機なしのT字路になってるんだけど、自分が曲がろうとしている方向から、車のヘッドライトの光が見えて「うわ、マズイ!」と思ったが、時すでに遅くブレーキもほとんど効かず。
反射的に車の来てる方向とは逆方向にハンドルを切るのが精一杯だった。
だけど、やっぱり間に合わず、車と衝突。
俺は思いっきり吹っ飛ばされた。
こういう事故のときって、スローモーションになるってよく言うけど、本当にそうだった。
はね飛ばされながら、「俺、死ぬのかな」なんて考えていた。
事実、頭を地面に打ち付けたので、ヘルメットかぶってなかったら、下手すれば即死、または脳死を免れなかったと思う。
すぐに慌てて車のドライバーが降りて来て、俺に声をかけたりしてくれたけど、そのドライバーの肩越しに、地面に横たわる俺を覗き込む女がいた。
相変わらずのニヤニヤ笑いをしながら、俺の姿を見てやがる。
どれくらい時間がたったか、救急車のサイレンの音が聞こえてきたかと思ったらその女の姿はふっと見えなくなった。
その時、はじめてその女がいわゆる幽霊って奴だと気付いた。
結局、幸いなことに、頭のほうは異常なし。
右足の骨折だけで済んだ。
とはいえ、まともに歩けるようになるまで、2ヶ月近くかかったけどな。
その事故の後、すぐに配達のバイトもやめて、その後は平穏な日々を送ってる。
基本、俺って怖がりなんだけど、そのときは事故のショックのほうが強くて
霊体験を怖がる余裕が無かったのも、不幸中の幸いだった。
オチというか、女の正体とか分からずじまい。