今年からゼミで一緒になったHというやつがいるんだが、普段はとにかく影が薄い。
Hは影が薄いというか、存在が希薄で目の前にいるのに認識しづらい。
同じ授業とってたはずなのに記憶にないし、並んで歩いてても時々確認しないと不安になるレベル。
足音も気配もしないし、いつの間にか隣に座ってたりしていつも「お前は忍者か!」って心の中で突っ込んでる。
そんな感じのやつなんだが最近、あることを発見した。
Hが近くにいるとなぜか安心するということだ。
それだけならいわゆる癒し系キャラで話は終わりなんだが、Hの場合、なんとなく不気味だったり居心地の悪い場所で真価を発揮する。
うちの大学は古くて、いくつか曰くつきの場所があったりして、いつもは昼なのに薄暗く感じたり冬でもジメジメしてるんだが、Hと一緒にいるとその悉くが何の変哲もない場所に変わってしまう。
聞いた話だと行けば必ず子供の霊に遭遇するという近場の飲み屋ですらHと行くと静かになるらしい。
そんでこの前のお盆明けにゼミの中でも仲のいい5人で京都のとある心霊スポットに肝試しに行ったのさ。
みんなHの能力を知ってるので2-3のグループに分かれる時でさえ女の子は「Hと行きたいな~。」なんてのたまうのだ。
で、なんやかんやキャーキャー言いながらそこでは別段何もなく無事帰還。
H含む下宿組4人(H、A、B子、俺)でAの部屋に行って飲むことになった。
しばらくダラダラして、日付が変わったくらいの時間だったと思う。
いきなり部屋と玄関をつなぐ廊下兼台所の空間に何者かの気配が感じられるようになった。
最初は俺だけ意識過剰なのかな、まだビビってると思われたらダサいな・・・とか思ってたんだけど、他のやつらもいきなり表情が硬くなってた。
Hでさえも。
体が廊下の方を向いてるAはドアを凝視して固まってるし、B子は俯いて一言も喋らなくなった。
終いにはどこからともなく何かが軋む音が聞こえるし、外で鳴いてた虫の声もしなくなってた。
これはひょっとしてかなりマズイ状況なのでは??と思ってたら、Hが徐に立ち上がった
俺ら3人を尻目にHはスッとドアの方を向いて軽く呼吸して背筋を伸ばして佇まいを正した。
ただそれだけの動作だったのに途端にHが大きくなった気がした。
なんというか巨大化したというか視界の中でHの占める割合が増したというか・・・。
さっきまで部屋の中でも見回さないとどこにいるか分らん様なやつだったのに、急に立体化して存在感が出た!という感じだった。
何だコイツすげえ!
そう思った時には謎の気配も音も消えてるし、虫の声も聞こえるいつものAの部屋に戻ってた。
因みにつけてたはずのエアコンは羽が開いたまま止まってた。
後でさっきのはなんだったのか?どうやったの?ってHに聞いたんだけど「気配が何だったのかはわからない。ただ、怖いと思ったら怖がるんじゃなくてピシッとしなさい、そうしたらアンタは負けないからって婆ちゃんが」って。
Hの近くの空気は今日も平和です。