中学まで高輪台で過ごし、父の会社がガタガタと崩れ、引越して小さな飲食店をしていました。
それでも借金は減らず、父はタクシーの免許を取り、朝から夜中まで走り回り、私と妹をなんとか高校卒業させてくれました。
プライドの高い人なので酔って暴れる事もありましたが、本当によく働いてくれました。
タクシー・・・。
その響きだけで私はぞっとしてしまことがあります。
父が『見た』のは真昼間でした。
品川を流していたら、黄色いジャージの上下にゴーグルの男が、歩道を走っている。
「随分、派手だな」そう思い、信号が青になりその男を抜き去り、品川方面から六本木へ。
「ん?」
前方を、黄色いジャージの上下にゴーグルの男がヘコヘコと走っている!
「さっき抜いたはず・・・」
じっくり見てよく覚え、抜き去り、銀座方面へ。
その間、客は捕まらず、
スムーズに走っていると「ん?!」またもや、前方に小さな黄色が・・・。
「ハハっ!まさかな!」
段々近寄る黄色。
ハッキリと解る黄色い。
ジャージにゴーグル。
抜き去り、汗だくで、客を拾い仕事を終え帰宅した朝、なんだかもの凄く疲れているようでした。
でも、「信じない」父はすぐ元気になり、仕事をこなしてました。
しかし、ある日、真っ青な顔で帰宅したので話を聞いたら、芝公園辺りから男を乗せたら千葉まで、と言うので高速ガンガン飛ばして千葉方面へ。
だんだん、民家が無くなり寂しい風景と共に、広い墓地が出現。
男はそこで降ろせと言う。
さすがの父もかなりびびったらしい。
でも男は、大金を払い墓地の上の暗闇に吸われるように消えた。
しかし、金はある。
「こんな墓地のど真ん中は嫌だから早く帰ろう」
そう思い、赤信号で止まってると、信号が青にならない。
5分・・・10分・・・。
周りは墓地。
黄色いジャージ野郎より怖かった・・・らしい。
空が薄明るくなり始めたら、一台の車が後ろへついた。
運転手のおじさんが降りて来て、タクシーの窓をコンコン!と叩くので、少し開けたら「ここいらの信号はボタン押さなきゃ青になんないよ~」と呑気に笑いかけ、ボタンを押すと青になった。
父は後続のおじさんに礼を言い、また高速ガンガン飛ばして会社へ帰ってきた。
「やっぱり、幽霊だなんだって、そんなもん怖くねぇ!ハハっ!」
車を降り、後部座席をふっと見ると座席が、鋭利な刃物でめちゃめちゃに切り裂かれていた。
その時ばかりは、父も愕然としたし、後から聞いて私も泣いた。