20年くらい前、私が高校生だった頃の話。
早朝の電話のベルに眼が覚めた。
電話は私の部屋から階段を降りたところにある。
両親の寝室にもあるので親が取るのを待ったがベルは鳴り止まない。
仕方なしに受話器を取ると、母の従兄弟が泣き笑いのような声で「今親父が死んだんや」と。
驚いて両親を起こし大叔父が亡くなったことを伝えると、両親は近所に住む叔母(母の末妹)と共に明るくなる前に大叔父のもとに向かった。
その日の夜7時頃、玄関の真上の自室で両親を待ちながらゲーム()をしてると、玄関の引き戸の開く音に続き家の中を歩く足音が聞こえた。
『なぜ無言なのだろう、ただいまぐらい言ってもいいのに?』
うちの車庫は母屋から少し離れているので、トイレに行きたくなった父が切羽詰まって運転手の母を置いて先に帰宅したのかな?と考えていると階下でベルが鳴る。
多分葬儀の日時を知りたい親戚だろうから父が出ればいいと放って置いたら、長い間鳴り続け電話は切れたが5分と経たぬうちにまた鳴り始める。
どうして出ないんだ!
何も知らない私が出ても仕方ないじゃない!
勢いよく自室のドアを開け放つと階下は闇だった。
誰か帰ってきたはずでは?と訝しく思いながら電話に出ると、遠くに住む母の次妹がのんびりした口調で「どうしたの?さっきも電話したのよ」と。
”誰かの足音がしたんです”、とも言えず両親が帰ったら連絡すると伝え受話器を置いた。
すぐに大学に行ってる姉からも着信があり、先ほどの出来事を話しながら、この闇の中に何が潜んでいるのかと目を凝らす。
話を聞くと姉は「実はあんたの声の他に誰かが話す声がするんだよね」と言いだすのでそそくさと電話を切った。
それから30分ほどして両親が帰宅した。
3月初旬は7時過ぎるともう真っ暗で、段差の多いこの家は住んでいる者でも明かりなしであの足音のように歩けない。
足音は玄関から戸惑うことなく家の奥に進んで行った。
大叔父はこの家で生まれた。
生家はやはり愛着があるものなのだろう。