小さい茶室でよければ・・・

カテゴリー「心霊・幽霊」

これは友人(仮にS君とします)の話です。

S君は大学生ですが、去年の夏、友達と旅行に行ったそうです。
無計画なS君は、ろくにプランも立てずにT県の観光地にバイクで向かったそうです。
2人乗り、後ろに友達を乗せる形で。

一通り観光を終えると、もう夕方です。
宿、とってないけど、大丈夫だろう・・・。
バイクを押して、宿を探して歩きます。
すると、周辺地図の看板がありました。

観光地なので、周りにはぽつぽつと宿泊施設があるようです。

「でもさぁ、今、夏休みだし、部屋空いてないんじゃないの?やっぱり、予約すべきだったって」そんなことをぶつぶつ言う友達を連れて、S君は一番近い旅館を選んで、向かいました。

そこは、「○○館」という、立派な旅館でした。
敷地も広く、2階建てで、木造に見えます。
寺みたいな雰囲気だな・・・と2人で笑って、入ってみます。

「すいませーん」と声をかけると、フロント(と言うのでしょうか)の奥ののれんから、着物の女性が出てきました。

「はいはい。えーと、ご予約されていた方で?」と言われ、友達は「やっぱり予約いるじゃんかよ」と耳打ちしてきます。

さすがにS君も少し焦って「すいません。予約してないんですけど、無理ですかね?」と聞いてみると「部屋は満室なんです」と女性は困った顔をしました。

S君「そうですか・・・じゃあ他をさがします」

女性「いえ、この辺りではここが一番大きな旅館で・・・他を当たっても、おそらく満室だと思いますよ」

S君「えっ・・・マジっすか、まいったなぁ」すると女性は、しばし考えて「少し、散らかってますが、小さい茶室でよければ」S君と友達は目を合わせて「そこでいいです」と答えました。

女性「少し待っていてくださいね、片付けてきますので」そこは1階の奥で、6畳ほどの部屋。

ふすまを開けて入ると、正面は壁一面、ガラス。
昼間なら庭が見えるのでしょうが、日が沈んだ今は、自分たちが映り込んでいます。
そして、左手にもふすまがありました。

畳に布団が、入り口を頭にするように2枚敷いてあり、S君が左、友が右の布団に寝転がりました。
つまり、S君が友達と、入り口ではないふすまに挟まれる形です。

「普通に綺麗な部屋じゃん」と盛り上がっていたのですが、徐々に口数か減り、いつの間にか寝てしまいました。

何時くらいでしょうか・・・。

「ずっ、ずっ、ずっ」

「ずっ、ずっ、ずっ」

そんな音でS君は目を覚ましました。

「ずっ、ずっ、ずっ」

見ると自分の隣のふすまが、閉まるところでした。

「なんだ、あいつトイレか」

そう思って、またすぐに寝入りました。

「さーーーーー」

次は、畳を何かがなでるような音で、目が覚めました。

「なんだよ。またトイレか?」

「するするする」

ふすまが閉まりかけた時に、ふと目をやると、畳を、なにやら黒いパサパサしたものが滑って、閉まっていくふすまに吸い込まれていくところでした。

その時はまだ、眠かったし、気にせずいて朝起きて友達に聞いてみたんだそうです。

「昨夜はやけにトイレが近かったんだな?眠れなかったのか?」と聞くと友達は・・・「何言ってんの?俺、疲れてたから今までぐっすりだったよ?トイレなんて一回も行ってない」

「おいおい、だってお前、何回もこのふすま開けてさぁ」とすぐ横のふすまを開けると押し入れだったそうです。

中にお札がたくさん貼ってあって・・・それよりびっくりしたのはドッサリと、ながーい髪の毛が束になっていたと言います。

宿の名前は迷惑が掛かるということで絶対に教えてくれませんでした・・・。

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